forgive and forget
あんなに大事なことだったのに、貴方はそれを「忘れた」と言いました。
そしてあろうことか「忘れたけど赦して」などと宣うのです。
もちろん私は「絶対に赦さない」と言い返してやります。
すると貴方は小首をかしげて、私に問いました。「どうして赦してくれないの」と。
今度は私が不思議な顔をする番です。「赦すべき理由は何?」
「自分なら、そんなことは笑って赦してあげられるから」それが貴方の答えでした。
「…………」それとなく度量の狭さを揶揄してくるかのようなその発言に、当時の私は何も言い返すことができませんでした。
でも、今ならわかります。
貴方があのとき言ったことは、一種の不遜に他ならないということが。
赦しとは、請うものではなく乞うものなのです。
そして与える者の善意によってのみ、初めて成立しうるものなのです。
つまり──そこには施しを与える者がいて、施しを得る者がいる。両者は崖の上と下にいて、上から下へと綱を投げてやるのかどうかは、上にいる者の裁量次第。
そのときすぐに指摘できなかった私が言えたことではないかもしれませんが、貴方はそんな当たり前のことも理解していませんでした。少なくとも、そんな風に振る舞っていました。
だからこそ、乞われる者の立場はいとも容易く壊れるものとなってしまったわけです。
私は貴方のことをいまだに赦してはいません。
もちろん、貴方があのとき何かを忘れてしまったことを言っているのではありません。貴方が何を忘れたのかなど、私だって実はもう忘れてしまいましたから。
赦すことができないのは、あのときの貴方の発言です。赦せないから、貴方を忘れることもできないのです。
だから──今すぐに会いに来てください。
私が貴方のことを、綺麗さっぱり忘れられるように。
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