授人以鱼不如授人以渔

人に授けるに魚を以ってするは、漁を以ってするに如かず。

この言葉は老子の教えの中の一つとして淮南子えなんじに記されているものである。現代語訳すれば「飢えに苦しむ者には魚を与えるよりも魚の釣り方を教えてやる方が良い」となり、これはつまり「助けるならば単なる急場凌ぎではなく相手の将来を思った行動を取れ」ということを意味している。


しかし、魚の釣り方を手取り足取り教えてやることが、本当にその人のためになるのだろうか?

もちろん、ただ魚を与えるよりは良いに違いない。しかし「学ぶとは真似ることだ」と言われているように、学習という行為は本来、自発的に体得されるべき過程のはずである。もし魚の釣り方を教えられた人があるのなら、その人は自力で魚を釣れるようにはなることだろう。しかし、それだけである。その知識を他の分野に活用することはできないのだ。

他の分野において新しい知識を吸収していくためには、最低限「学ぶ方法」を学んでおかなければならない。いつも魚の釣り方を教えてくれるような親切な人がいるとは限らないのだから、自分から主体的に対象を観察して、どこがポイントなのかを的確に判断し、それを実践していくことが必要となる。

自分の夢を叶えるために落語家や板前の下へと弟子入りを果たした場合。あるいは大学生が研究室に配属された場合や、新社会人が会社に入社した場合。教わる者は師匠・教授・上司から技術を盗み見て、自分の頭で考えて成長していくことが要請されている。だからこそ彼らが懇切丁寧にどうすれば良いのかを教えてくれることはほとんどありえない。


故に、私はこう主張したい──授人以渔不如但使人看所釣。

人に授けるに漁を以ってするは、だ人をして釣る所をしむるに如かず。

畢竟「飢えに苦しむ者には魚の釣り方を教えてやるよりも、ただ目の前で釣りをしてみせるだけの方が良い」と。

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