第9話 たす.....けに?

 ーー殺ってしまった。ジェルフェンの時のように自分に言い訳をつけられないレベルで。

 黒槍によって体を貫かれ串刺し状態になっている年下の少年を見て、霧生は2つの感情を抱いていた。

 1つは完全なる罪悪感と後悔といった後ろめたい感情だ。

 そしてもう1つが自分が殺されなくてよかったという安心感。こちらの方が前者より大きい。

 

 「ふっ......へへ。しょうがないよな。先に殺そうとしてきたのあいつな訳だし」

 自分の罪悪感に理由をつける。

 「そっそれに、あいつを殺した時俺全然意識無かった訳だし......」

 自分の後悔に理由をつける。

 だが、自身の安心感に理由などつけられる訳もなく殺人を犯したという現実だけが無慈悲に突きつけられる。


 ーー俺が殺った。俺が殺した。2人の生命を俺が奪った。


 「うっうわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 会場全体に響きわたった悲鳴は異常に騒音だった周りを一瞬で静まり返らせた。

 観客が何があったのかと霧生に視線を向けた瞬間、


 「ぐふぅっ。グハッ」


 1人の観客が吐血した。そして息絶える。

 同じように2人目3人目と倒れていく。

 他の観客は何が起こっているのか分からず呆然としていたが、死んだ者の隣に座っていた女が状況を理解し行動を起こす。


 「きゃ......きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」


 だが、その絶叫した女も黒い斬撃によって葬られる。

 ここまで事態が大きくなればどの観客も状況を理解できるようで、次々と悲鳴を上げる者や逃げ出そうとする者、逆に霧生を殺そうとする召喚者や観客も出てくる。


 「あっ有り得ないわよ!結界を破って攻撃するなんて!」

 

 ーーそう。スタジアムと客席には最高峰の防御結界が展開されており、生半可な攻撃じゃ傷をつけることもまず出来ない。

 

 「お前達!あの男を直ちに抹殺しろ!」

 

 召喚者は魔法陣から呼び出した異能力者達に霧生を殺すように指示し、異能力者達は本気で霧生潰しにかかる。

 先程までの霧生であれば対人術や闇魔法の種類を殆ど把握しておらず、全く歯が立たないが、今の霧生は人格はそのままだが体は闇に乗っ取られているため、異能力者達は一瞬で殺害される。


 「うっうわぁぁぁ!こっちに来るな!殺すぞ!」

 

 言うことを聞かない体は人を次々と殺し、次第に霧生は苦痛や苦しみが消えていく。

 

 このままだとこの何倍もの人間を殺してしまうと悟った霧生はコロシアムの外を目指す。

 外に向かって走っている間にも霧生を殺そうとする無謀者が絶えなかったが全員返り討ちに合う。





ーーーーーーーーーーーーーーーーー






 ーー俺、何人殺したんだよ。


 数え切れない程の命を奪った霧生は少し落ち着いた頭で思考を開始する。

 このままあてもなく走るのにどれ程の意味があるのか。ここは何処なのか。追手はまだ来るのか。

 捕まったらまず処刑確定であろう。あれだけ人を殺したのだから。

 だが今の状態では先程の力は発動できず、すぐに捕まってしまう。

 暗すぎる未来しか待ち受けていないのは確実であり、自殺したほうが楽にしねる可能性すらある。

 霧生が渋い顔で唸っていると、木々がササッと揺れる。


 「!」


 追手だと思った霧生は即臨戦態勢に入る。

 だが出てきたのは両手を上げた美しい女性であった。

 身長は大きくもなければ小さくもなく胸のあたりまで垂らした透き通る銀髪と澄んだ露草色つゆくさいろをした絶世の美女といった形容では全然物足りないようなとても美しく、可愛らしい女性であった。


 「えっとー。君は敵なのか?」

 「いいえ。あなたを助けに参りました......」

 「俺を......助けに?」


 

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異世界チートで魔王になりますー世界を掌握せよ闇支配ー @syuutennori

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