第8話 串刺し

 ーーウワァァァァーーー!

 第1戦とは比べ物にならない程の大歓声が霧生の鼓膜をギンギン震わせる。

 目の前に立っているのは見た目13歳といったところの若々しい小柄な少年であった。

 その少年は金髪で目つきが鋭く現代日本の不良といった感じであり、その見た目と等しく、


 「はっ。あんたみたいなダサい赤髪の奴なんか俺様の『異次元斬撃』でザクザクに斬り殺してやるよ」


 とてもふてぶてしくイラっとくる態度だが霧生は気にせずに


 「君さこの殺し合いに正当性があると思ってる?」ジェルフェンの時と同じ問を投げかけたところ、

 「当たり前だろーが!俺様に勝てる奴なんていねーし。殺しまくれるし。良い暮らしができるしで最高じゃねーかよ」


 こいつに関しては戦いに対してとてもやる気を出しており、ジェルフェンのようなタイプとは少し違う。

 霧生と少年が話していた時、会場全体に実況が流れていた。


 『今回は異次元斬撃を使い様々な異能力者を斬り殺してきた、立浜風琴たちばなふうき選手と突如現れたダークホース!霧生選手の戦いだぁー!賭けられたペールは同額の1億5000万ずつだぁー!』


 耳に響く実況が終わった瞬間戦いの始まりを告げるゴングが鳴る。


 「今回に関しては良い技を編み出してきたんだよね。いくぞ!遮眼しゃがん霧雨きりさめ!」


 ーー遮眼の霧雨。闇魔法陣を相手に向けて展開する事で触れた瞬間視界を暗闇に染める霧雨状の魔法を放出する。


 霧生は何発かは避けられると予測し、新たな魔法陣を展開していたが風琴は避ける動作はなく真正面から直撃する。

 

 「は?お前殺しに来るんじゃなかったのか?」

 「はっ。視界がなかろうがてめぇの位置程度把握出来んだよ。なめてんじゃねぇぞ!」

 

 風琴は確かに何も見えていなかった。霧生も会場も観客も。だが、見えていないはずなのに灰白色かいはくしょくの魔法陣を霧生を囲むように展開させた。

 そしてその魔法陣から無数の斬撃を繰り出し気流を狙う。

 もちろん防御魔法や回避行動を知りえている訳が無い霧生はその全てに当たってしまう。


 「ぐっ!ぐわはっ。滅茶苦茶だろ!死ぬ死ぬ死ぬ!痛いっ!」


 ズカズカと切り裂かれ、血しぶきがまい、身体の内部が見えかかっている霧生の体は今すぐにでも死ぬ状態であった。


 ーー無理だ!死にたくない!怖い怖い怖い!


 「死にたくねぇーー!」


 悲鳴を上げたその瞬間。霧生の体を暗雲に似たモノが包み、1言、


 「殺す。死ね」


 刹那、1本の黒槍が風琴に向かって放たれる。

 風琴はハッと鼻で笑い防御壁を展開する。だがその黒槍は防御壁を軽々と壊し直進を続ける。

 その様子を見た風琴は防御壁を何重にも展開し最高まで硬化させるのだが無意味。


 「はっ?なんだよそれ!おかしいだろ!」

 

 最後の手段として回避をする風琴だが黒槍はそれを追走し貫通させる。

 貫通した瞬間、動きを止められた風琴に向けて20以上の黒槍が出現し串刺しにした。

 勿論の事風琴は息絶え、霧生に関しては正気に戻る。


 「ぐっ。どうなったんだよ......。ってえっ!?」

 

 人間が何本もの槍に串刺しになっている光景を目の当たりにし、激しい頭痛、目眩気持ち悪さに襲われる。

 その時会場のアナウンスが、


 『おっとー今回も霧生はしたら選手の勝利だぁー!風琴選手の異次元斬撃によって死んだかに見えたが逆に串刺しにして風琴選手を葬ったぁー!』


 「おいおい!嘘だろ!?これ俺がやったよかよ!?」


 観客は最高の光景に狂う者も出てくる始末であるが霧生の脳中はある感情で埋め尽くされているのであった。 

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