第5話 生存の選択

ジェルフェンは余裕な顔つきでドッシリと構えるのに対し霧生は対人戦など初めてなので隠す気配もなくオドオドとしていた。


 「グワッハッハッ、少年よ。お前には悪いが今この場で死んでもらうぞ」

 「どうするかなー。どうも出来ないんだけどさー」


 刹那、地面に大きめな紺色の魔法陣が展開され、鳴門状に巻かれた海流が霧生を呑み込む。


 「はぁ!?なんだよこれ!渦潮じゃねーか」

 「その通りだ。俺はお前と同じく単体通常魔法しか使えない転移者だ。普通なら初戦で死ぬところだが、俺はこの魔法を磨きに磨いたもんでね」


 ジェルフェンは渦潮に重ねもう一つの異能を発動する。


 「リヴァイアサン!」


 渦潮の中心から突如水竜のようなものが出現し、唸る。


 「グガァォォォ」


 ーーいやいや......こんなの絶対死ぬでしょ。ほんっとこの世界俺に優しくないよな。


 霧生は世界の自分への配慮のなさを呪いながら自分も魔法を発動しようとする。

 しかし、霧生はこの場において一番大切な事をまだ理解していなかった。


 「いやちょっと待って待って。タンマタンマ。俺まだ魔法の使い方教えてもらってないんですけど!?」

 「何を申すか。召喚された瞬間に激痛と共に頭に叩き込まれたであろう」

 「激痛?叩き込まれる?そんなのないって」

 「ではそのまま死んでもらおう。じゃあな」

 ジェルフェンはそう言いながら水竜を霧生に向けて一直線に物凄いスピードで直進させる。

 霧生はだんだん近づいて来る死の恐怖と対峙し


 「ちょっちょっと待てよ!何をどうすればいいんだよ!」


 必死の懇願もなく直進してきた水竜は勢い良く襲いかかり霧生を呑み込む。


 「ゴボゴボ」

 ーーいやだ!死にたくない!




ーーーーーーーーーーーーー






 霧生は四方八方、上下左右、全方位が暗闇に包まれた場所で目を開ける。


 「あれ?俺確かジェルフェンってやつに変な魔法うたれて死んだんじゃ......?」

 「あーそうだ。本来であればお前はあの魔法によって跡形もなく消え去っておろう」


 暗闇の中、赤髪の幼女が淡い白色の光を纏って立っている。その少女は紅色の透き通った瞳に綺麗な赤髪、体躯は幼女にもかかわらずどこか大人びた雰囲気のある美少女だ。


 「えっとーお前あれか?夢に出てきた黒い灯火か?」

 「いかにも。先程は魔力が足らずあの形態になっていたがこれが本来の私だ」

 「へっ......へー。どうやって魔力の回復をしたんだ?」

「先程の魔法から吸い取った」

 「そりゃまたチートな事を。つか俺死んだんじゃねーの?」

 「本来であれば......な。この私がお前の魂の中に存在するのだ。あの程度で死なせるわけなかろう」

 「そう、なのか?じゃあ俺は死なねえんだな!」

 「だがその変わりお前は死よりも苦痛な選択をする事になるのだぞ?」

 「あぁ!構わない!命がなくちゃ何も出来ないしな!」

 「ほぉー。後で後悔するなよ。少年......」


 霧生は後にこの選択に対する過ちと後悔を課せられる事になる。

 あの時死んでおけばよかたった......と。

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