EXTRA TRACK;ラグナロク

「…デデビッシュアドン。」

「?どうした、デベルバガリゴ?君のような者がこんな所へ来るとは…?」


 三瀬綾が案内人へと転生した事を知った私は、デデビッシュアドン…人間界でアズラエルと称される天使の下に訪れた。


「尋ねたい事がある。例の案内人の件だ。」

「三瀬綾…の事か?」


 腑に落ちない、幾つかの疑問が生じたのだ。


「彼女は、冥界で15年もの任期を与えられた。しかしそれは、ドリヌムレブギッタを更生させた上での任期だ。」

「…つまり?」

「知らぬ振りは止せ。ブギッタの件がなければ、50年以上の任期を与えられるはずだったのだ。つまりは、案内人になる資格はまだなかった。それなのに、どうして私が彼女を迎えに行く予定になっていたのだ?私が案内する魂は、冥界での任期が5年以下の、資格を得る魂だけのはずだ。」

「………。」

「ブギッタの件もそうだ。どうして更生させる必要があった?物質世界に転生させるのが原則だろう?」


 アヤとドリヌムレブギッタの関係は耳にした。しかし、それがこの原則を翻す理由にはならない。


「一石二鳥だからだろ?人は増え続けるのに、案内人の数は足りない。人類の増殖と暴走に、天界と冥界はついて行けないのだ。案内人の補充が必要だった。」


 私の疑問にデデビッシュアドンが、膨大な過去暦を整理しながら答える。


「案内人だけじゃない。ここの書庫もいっぱいだ。働き手も少ない。まぁ…せっかく天使になれたのに、好き好んで冥界で勤務したがる者などいないのも理由の1つだが…。」


 アドンの答えにも一理ある。しかし私には、拭えない一抹の不安があった。


「…気が付いたか?」

「………。」


 不安を察したアドンが、溜め息をつきながらそう呟く。


「デベルバガリゴ…。人間界で、ミカエルと呼ばれる者よ。君の本当の役職は案内人ではないだろう?」

「………。」

「オーディン…。そう呼んだ方が話は早いか?」

「!!」

「僕らは案内人を…つまりバルキリーが集めた、印を与えられた者…エインヘリャルを募っているのさ。これからは、冥界での任期が20年以下の者までも案内人の資格を得る。君も今の役職を辞め、軍師として活動する日が近い。」

「…まさか?」

「………。テンデンスチリグニが以前、ガイヤ様の下を訪れた。そろそろ、笛を吹く頃だと判断したのだ。」

「!!」


 テンデンスチリグニ…。人間界ではガブリエルと称される天使。そして北欧ではヘイルダムと呼ばれる。…世の終末を告げる笛を吹く、破滅の天使ともされている。


(ラグナロク…ハルマゲドンが近付いていると言うのか!?)


「ガイヤ様も…リグニの意思を受け入れたのか?」

「権限はリグニが持っている。ガイヤ様は彼の意思に従う。リグニは、事務的な報告に向かっただけだ。」

「………。」


 あの時…巨大なドラゴン達を破滅に追いやり、人類に地球の管理を任せた。しかしガイヤ様は、別の者にその管理を任せようとしている。

 人類には千余年前、1人の預言者を通して警告した。しかし彼らの暴走は、留まる事を知らない。



「もう行くのか?少し、ゆっくりして行けよ?」

「…………。」


 全ての疑問を解消した私は、アドンの部屋の扉を閉めた。

 スローンズペーパーで束ねられたノートは、彼の机に置いて来た。しかし…まだ覚悟が決まらない。


(ガイヤ様は…神は…本当に人類を滅ぼすおつもりなのか?)

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