第六話;ドリヌムレブギッタ
『…ドリヌムレブギッタと言う名前で2年間、案内人として活動した。しかしその活躍振りと来たら…』
…テルは、ヨネお婆さん以上に徳を積んだ人間だった。だから特別にペトロさんが迎えに行って、死神になる事を勧めた。
『ところで…話を割って申し訳ないが、死神と言う名称は好きじゃない。案内人と言ってもらえるかな?』
「あっ、ご免なさい。」
普通、案内人の資格を得た魂が冥界で過ごす時間は5年にも満たない。だけどテルの場合は安息の日々を送るのに100年掛かった。過去の傷が癒えなかったのだ。
1世紀掛けて安らかになったテルは勧めに従い死神…いえ、案内人になったけど、仕事をこなしてる内に再びトラウマに苛まれる事になり、粗暴な性格になって行った。
『まぁ、そう呼ばれ出したのはこっちにも原因があるから…人間だけを責める事は出来ないんだけどね。』
今日のように無理から魂を縛り、怖がらせたまま冥界へ案内するようになったのだ。そんな案内人が他にもいて、死んだ魂は彼らに怯え、いつの間にか死神と呼ぶようになった。そして遂にはテルのように、死神を自称する者も現れた。
そんな案内人は資格を剥奪される。人間か、他の何かに転生されられるのだ。だけどテルは特別に、もう1度チャンスを与えられた。
『彼と、テベルバガリゴ様…つまりミカエル様の服装の違いを見ただろ?』
「様?ペトロさんの方が、上位の案内人じゃないんですか?」
『(いや~~~。そう思ってもらえるなんて嬉しいな~。……しまった!)コホンッ!違うよ。テベルバガリゴ様は神の側近…。冥界ではなく、天界に属するお方だ。位は僕より上だよ。』
「……。心の内、丸見えでしたよ?」
『……。話を戻そう。』
また、案内人に関した知識を得た。
案内人になった魂は、『天子』と言う階級に属する。そこで業績を認められれば天界で住む事を許され、階級も『天使』に上がる。やっぱり、ミカエル様は天使だったのだ。
だけど2人の服装が違うのは、階級の差が直接的な理由じゃない。
『僕らは霊体。つまりは実体を持たない。気や妖精達と同じだ。人間が抱くイメージに感化される。ミカエル様の態度は正しく天使に思えて、テルの行動は死神と捉えられる。』
天子が天使になるには、これまた徳を積まなければならない。自らが描く容姿も反映されるけど、その積んだ徳が容姿に反映されると言うのだ。
ちなみにペトロさん曰く、テルの姿は最低中の最低らしい。自他共に認める、死神の姿をしている。
『君に与えられた課題はこれだ。テルのトラウマを消し、立派な天使へと育て上げて欲しい。そうしないと、魂が冥界で安息の日々を送れない。』
「?」
『冥界も、これまた実体を持たない世界なんだよ。』
(なるほど……。)
話が見えてきた。
人は、死んだ後に天国や極楽、若しくは地獄に行くと考えている。だけど違う。行く先はただ1つ…冥界なのだ。だけどそこは実体を持たない世界。気やエネルギーだけが存在していて、それらは、死んだ人が持つイメージに感化される。つまり地獄に堕ちると思った人には地獄に見えて、天国に行けると思えば、冥界は天国になる。
…全ては繋がっているのだ。案内人は魂が安息の日々を送れるように仕向け、魂が冥界を天国だと思えば案内人を天使と見なす。すると彼らの容姿は変わり、徳も積まれる。やがて本当の天使へと昇級する。
逆も然りで、その代表例がテルだ。…彼のトラウマを消し、正しい行いをさせるのが私に与えられた課題なのだ。
(……だけど)
『冥界で地獄のような日々を送ると、魂は改心し辛くなる。転生後の生でも善行をしなくなるんだ。冥界にも負のエネルギーが増える。…悪循環に陥るんだよ。』
(だけど…)
『だから案内人は死んだ者が持つ後悔や迷い、罪悪感を取り除いて冥界まで連れて来る必要がある。すると魂は…』
「どうして私が!?」
『……?』
「どうして私が、人間の私が…案内人の教育係に?」
『………。』
冥界や案内人の事は分かった。残った疑問は、課題を与えられた理由だ。
『これは試験でもある。…君に与えられたね。』
「?私に…?」
『弟の命を餌にしてるけど…それを抜きにして、ドドンギバムゴやデデビッシュアドン様は君を験しているんだ。』
「?閻魔大王には様を付けないんですか?」
『…君は脱線が多いね?好奇心の塊かい?(君だって付けてないじゃないか?)彼とは友達のような関係だ。但し、デデビッシュアドン様はテベルバガリゴ様と同じく天界に属するお方…。人間界ではアズラエルと呼ばれ、魂の過去暦を記録する天使達を仕切る大天使様だ。』
「???」
『あのお方の名前や役職も知らないのかい?全く…。冥界に来るまでには、ちゃんと勉強しときなよ?』
「…済みません。」
『…話を、もう1度戻そう。君が言う通り、本来ならテルにはもう1度天使を付けるべきだ。教育係としてね。だけど今回は特別なんだ。僕らはその役目を、君に任せる事にした。』
「だから!どうして私が!?」
『いずれ分かる。不味い!彼が冥界の出口を抜けた。急がなきゃ!伝えなきゃならない事はまだある。』
「…………。」
「ふっ~!全くあの若僧…。口だけは達者だったな…。」
「テル!置いて行くなんて酷いじゃない!?」
文字が消えて間もなく、テルが戻って来た。……また粗暴な案内をしたに違いない。
「今度はどう扱ったの!?また、死んだ人を縛りつけたんでしょ!?」
「五月蝿いな!指図は受けないって言ったろ!?…正解だよ。今時流行らない暴走族が、運転を誤って事故死した。死んだってのに頭に乗るもんだから、地獄に連れて行くって脅した。そしたら奴、大泣きし始めたよ。」
「?テル!!」
(そんな事したら、冥界で苦しむ事になる…。)
「そこで縛りつけた!そしたらもっと泣き出して、顔は蒼褪めた。見物だったよ。」
「テル!!」
(そしてテルの姿は、もっと死神チックになる。…正に悪循環だ。)
「もう、あなたの勝手にはさせないんだから!嘘ついたでしょ!?私も空を飛べるじゃない!?」
「!?ロブンラバビウダ様に教わったな!?」
「これからは、私も同行するんだからね!」
「!!くそっ!」
「その言葉遣いも止めなさい!」
ペトロさんが最後に教えてくれた事…。私も空を飛べる。だけど病院には近付いちゃいけないみたい。テルが言ってたように、自分の体に戻ると命の保障が出来ない。
(ご免ね…。お父さん、お母さん…。)
だけど健太は無事だ。閻魔大王の保護を受けてる。
…そしてもう1つ。私は少なくとも、1人の案内人の名前を覚えなきゃならなくなった。
『「ドリヌムレブギッタ」…。テルの元の名前だ。彼の前でその名を呼んだ時、封印されてる記憶が蘇える。』
「!?そんな事したら、トラウマがもっと酷くなるんじゃ?」
『最後の試練だよ。トラウマを消し去った後、この名を呼びなさい。それでも彼に変化がなければ、君は試験に合格した事になる。健太君の命も救われる。』
「…………。」
『難しくはないはずだ。君には素質があり…資格もある。それに彼は、トラウマさえなければ誰よりも優しい者なのだ。だからチャンスを与えたんだ。』
「…分かりました。私、やってみます。ありがとう御座いました。ロブンラバ……。?」
『私の名前は後で良い。(って言うか、後一息なのに!)…ドリヌムレブギッタ。その名だけは忘れるな。』
(…………。)
テルの前世を知り、彼の優しさも知った。ヨネお婆さんより優しく、強さも秘めていた。だけど前世で受けた悩み、トラウマが今のテルを作った。…そのトラウマを取り除き、昔の彼に戻さなければならない。
いえ、もっとだ。記憶が戻っても挫けないくらい強く、そして、優しい案内人に育て上げなければならない。
…だけど正直、自信が全くない。ペトロさんは私にその素質があると言うけれど…。
「来た!また仕事だ!」
「!?待ちなさい!」
それでも諦める訳にはいかない。健太の命が掛かってる。
『飛べると思わない事。浮くのでもなく、目的の場所に体を移動させるとイメージするんだ。空を飛ぶ、浮くではなく、「そこにいる」とイメージする。それを持続的に繰り返すんだ。』
「!!飛べた!」
ペトロさんに教わった通り、テルの側に私がいるとイメージした。これでテルから離れる事はない。
「マジで!?くそっ!」
「へへっ~!」
張り付くように空を飛ぶ私を見て、テルが悔しがる。嫌味な笑顔を返してやった。…ちょっとだけ自信が付いた。
(やり抜いてみせる。健太の為に……テルの為に!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます