4章 クルスの誕生日 前篇

 あれから僕は、龍の力を出すのをためらっている。なぜならば、前のように地面を抉えぐり大穴を開けることができるのだから、頻繁ひんぱんに使う訳にもいかないし、城の人たちに迷惑をかけてしまうのが一番いやだからだ。僕が成長するのに必要なものを文句も言わず与えてくれたのだから、無下むげにできるほうが、人間としてダメな気がしたからだ。こういうことを考えているときは顔を下に向けて立っているので傍はたから見たら、泣いているように見える。なので、クルスたちが膝の上にのせて頭を撫でてくれる。僕は、気づかないときもあるのだが、この時間がとても心地よく思えるのが不思議でならない。

 僕は、自分に力が無いからと思い城から抜け出して近くの森へ行き、ゴブリンや小動物を倒してきているがその嬉しさからか、城に戻るとマルグレットが起こるので、クルスのところへ抱き着きに行くと、こちらをマルグレットが羨望せんぼうの眼差しで見ていた。クルスが「そこまでにしてあげなさい」というとしょんぼりした顔で「はい」と答えるのが日課になりつつある。そこに新たにメイドが加わった名前は、クラリス、僕より少し年齢が上の頼れるお姉ちゃん的存在になっている。クルスだと、お茶のおいしい入れ方を知らないみたいだったし、マルグレットは師匠ポジションになりつつあるし、ほぼ同年代として気軽に話せる。それに、お姉ちゃんポジションが落ち着いているのか、自分自身お姉ちゃんと呼んでしまうこともある。

 いつものように城の書庫の本を読み漁っていると、気になる本を見つけた。その本は「エルフの年齢のとり方」だった。自分の種族である以上知っておいて損はないと思った。僕は、すぐに読んでみた。「何々・・・エルフは、寿命が長すぎるために、そんな概念が存在しないが、エルフ族に聞いたことを平均してまとめると、約1.200歳~5.000歳まで生きる事がある。※あくまで、ハーフエルフの寿命」と書かれていた。僕は驚愕きょうがくした。命の概念が存在しないという事は向こうの世界ではあり得なかった事だ。この結果は、僕たちエルフが一生を終わらせるのに対して、人間は僕たちの寿命の50分の1しか生きられないから、出会った人が死んでいくのを見ているのはさぞかし辛いんだろうと思ったが、それとは逆に、新しい出会いもあるという事だから、もっと楽観的に考えてもいいもかも知れないと思う。ここで自分の周りに関わった人物を思い返してみた。僕はせめて、皆が幸せに暮らせるような世界であってほしいと心から願う。僕は、この世界で、飢餓きがをしている人を見たことがないこれは、城の書庫を漁っていても書かれていなかった。クラリスに聞いてみたけど、「そんなことは知らなくていい」と言われてしまった。こればかりは教えられないようだ。僕は、この世界に来て新たな知識がそこそこあるつもりだが、やはり新しい知識はほしくなってしまう。僕は見た目こそ10歳の子供だが、本当は17歳なのだ。だから言葉の意味も分かってしまうが、あえて追及しないようにしている。あえて、外の景色を見たりして意識をそっちにそらしていたりすると、マルグレットが後ろから撫でてくれたりする。これが心地良くてやみつきなのは秘密だ。僕は、城下町を何となく見ていると、いつもと違うことに気が付いた。活気がい触れているのはいつものことだが、いつもと違う垂れ幕のようなものが下げられている。僕は、目を凝らしてみると、そこには、「女王様のお誕生日まであと10日」と書かれていた。僕はそんなに頭を回していなかったので、分からなかったが、「もうそんな時かじゃあ何か作ってあげるのもいいかもしれない」なんて考えながら、何を作るか悩んでいると、クラリスが僕の部屋にやってきて、「何を見ているの?」と聞いてきたので、クルスの誕生日に何をあげれば喜んでくれるのか悩んでいた事を話してみた。すると、「イリスだったら、何でもいいと思うよ!」と言ってきたので、心の中で「それが一番こまるんだよなぁ~」と、叫んでいた。その顔を表に出さずに「うん、わかった。ありがとう。あ、あと、この事はクルスには伝えないでね。」と、伝えておいた。そうしたら、うなずいてくれた。

 城にこもっていても案が出そうになかったので、城下町へ行くことにした。僕は、やはり今回もみんなに内緒で来た。街の様子もいつもとやはり違う。皆が笑顔でいることが多くなっていることが多く目につく。それを見ていると、「やはりクルスは街の人に好かれているな」と感じることができる。街にせっかく来ているのだから、工房に行って何か作らせてもらえないか頼みに行ってみようと思った。なぜなら、あそこはきれいな硝子細工がらすざいくで見るものを魅了みりょうし、使い勝手もいいと来た。ならば、行くしかあるまいと思って駆け足で工房まで行った。

 僕は、工房を切り盛りしているレイブと言われる男性に声を掛けた。すると、「なんだい?」と用件を聞かれたので、素直にそのまま話してみた。すると、危ないとか言われると思っていたのだが、あっさりOKが出たのでかなりうれしくなった。それに、作りたいものがたくさん浮かんできた。すっかり忘れていたお金のことを切り出すと、怒られるかと思っていたのだが、「お題は結構だよ」と言われて安心した。

 すると、レイブさんが話を切り出してきた。「で、何を作りたいんだ?」と尋ねられた。僕は、季節が夏になってきているので、「できればコップや、お皿が良いのですが。」と言うと、「じゃあ、コップにしてみるか?」と言われた。それを聞いて、僕は、「はい」と元気よく答えておいた。

 そして、レイブさんと共に5時間かけやっと納得がいくものが完成した。後は、レイブさんが、いろいろとしてくれて、向こうの世界で言うところの琉球硝子りゅうきゅうがらすのようになっていた。僕は、お礼を言って宮殿に帰ると、僕の部屋にマルグレットがいてびっくりした。とても怒こっているようだった。僕は、事の顛末てんまつをクルスに話さないことを条件に話し出した。すると、マルグレットは、「偉い」と言って褒ほめてくれた。僕は、クルスに見つからないように自分の部屋に隠した。10日後が楽しみで仕方なくなった。暇だったので、最近魔法の鍛錬たんれんも兼ねて、城の中にある騎士の魔法の修練所に行くことにした。僕は、向かっている途中にクルスに会ったので、「これから、魔法の練習に行ってくるよ」と言ったら、「怪我には気を付けてね」と言われたので、「うん」と言っておいた。

 修練所につくと、この城を守ってくれている騎士たちが、声を掛けてくれる。「僕は、鍛錬するために来たから、空いている場所を教えてくれないですか?」と聞いてみると、「宿舎の隣が開いております」と言われた。いつもは、いっぱいなのに珍しいと思いつつ、感謝の言葉を言って借りさせてもらうことにした。

 僕は、「ここなら多少破壊力の大きな魔法を撃っても大丈夫だろう」と思い、風属性の一番派手な魔法を放つと若干龍の力が、混じっていたようで凄まじい破壊力の風の刃となった。僕が、当たったと思った次の瞬間、すごい音を出して的になっていたサークル上に重ねられている金属が吹き飛んだ。すると、足音がかなり急いでいる感じで近づいてきたのに気づき、早めに自分がやったと報告すると、騎士団長が顔を引きつらせて驚いていた。内心で「まぁ、あの顔も当然だろう」と思っていた。なぜなら、10代の純潔のエルフでも、このような威力を持つ魔法を放ったことなんて、聞いたこともないだろうから当然だ。

 僕は、クルスにも、このことを悪い事をしたと思い、しょんぼりしながら言ったら、

 「すぐに壊れるようなヤワなものを龍の力が出てきているものに使わせるほうがダメだったのね。今度から、もう少し強度をあげたものを作らせるから、それを使ってちょうだい」と言われすごく晴れやかな気分になった。僕は、「ありがとう、クルス。」と言って、玉座の間を出た。僕は、自分の部屋に向かっている途中にマルグレットにクラリスの居る場所を聞いて向かってみた。僕は、クラリスを捕まえて、話があると言って、自分の部屋に来てもらったというか強制的に連れてきたと言うのが正しい。ここに呼んだのは、クラリスが使っている体の強化の魔法を教えてもらうために呼んだのだ。

 部屋に来て速攻この話を持ち出してみたすると、「簡単故ゆえに難しいよ。それに、これは応用や攻撃のバリエーションの派生の増やし方も上がると思うのだけど、身体能力を格段にあげるから、ふざけたりしないことが教える条件。それでいい?」と言われたので、僕は、頭を縦に振っておいた。すると、クラリスが、「それと、基本を教えるだけで、派生を考えるのとかは自分で改良していってね。」と、もう少しで忘れるところだったという顔をしながら、安心していた。そしてこっちを向いて、「じゃあ、教えるね。イメージとしては、全身の魔力を強化したい部位に送り込む感じだよ。」僕は、全身の魔力を感じるために、目を瞑つむって、精神統一をして体の魔力を目に集めて、目を開けてみると、凄くよく見える。窓の外を見ると、街の様子がよく見えた。近くで見ていたクラリスは、「えぇ!!もうできたの?イメージを教えてこの速さで出来るなんて!!」と、ショックを受けていた。魔法や知識は、こっちの世界に来てから、吸収の速度が格段に向上していて、自分でもびっくりするほどの速さで知識を増やしてきた。僕は、いまだ狼狽ろうばいしているクラリスを見ていると、何だかすまない気分になってしまった。だから少し落ち着いてから、小さな声で「ごめん」と言っておいた。 

 時は進みクルスの誕生日の前日がついに来た。僕は、マルグレットに許可を取って今日は朝から、街に明日のパレードの準備の手伝いをしに来た。僕は、この前に硝子細工を作らせてもらったレイブさんのところへ行くと、「此処ここには手伝えることはないから、向こうのパン屋を手伝ったやってくれ」と言われた。僕は、「了解しました。」と言いながら、走っていった。そこには、老夫婦がせっせと頑張って作業を進めていた。僕は、「手伝えることは、ありませんか?」と聞いてみたら、「パンの陳列ちんれつや、部屋の飾り付けをやってほしい」と言われた。僕は「はい!」と答えた。僕は、さっさと作業に移ることにした。

 お爺さんのところへ行って、「パンの陳列を任されたのですが、持っていくものを教えてもらえませんか?」と言うと、「そのパンと、そのパンを持っていってほしい」と言われたから、「分かりました」と言って、パンを落とさないように細心の注意を払いながら、パンを店頭に並べた。軽いかもと思っていたのだが、想像と違い結構重かったので少しだけ全身を強化しておいた。僕は、終わったので、飾りを取りにお婆さんのところへ行き、飾りを取ったら店の天井や窓にかけていった。お婆さんがこっちを見に来る時にはもう終わっていた。お婆さんはびっくりしていた。暇になったので、「他にやることはありませんか?」と聞くと、「これだけで十分だよ。ありがとう。」と言って、もらえた。そろそろお昼になるので、いったん城に戻ることにした。僕は、城に戻ってクルスとみんなで食事を済ませたあと、クルスが僕の部屋に入ろうとしているのを止とめて、部屋の外を見ると、しょんぼりしながらクルスが自分の部屋にもそっていくのが見えたので、少しクルスの部屋にいてあげると、仕事をせず僕のことをずっとみていたので後にノックして入ってきたマルグレットに見つかり急いで仕事をしているのを見ながら、また街に行ってくるよと言って部屋を出ていこうとすると、クルスが悲惨ひさんな顔をしていたが、見ていないふりをして街に出かけた。僕は、手が足りなそうな場所を探しながら、見つけたら、手伝いを必要としているのならば、手助けをしたりしていたら、あっと言う間に夕方になっていた。改めて街を見回すと、1日でもう完成しているのでびっくりしている。疲れていたのか、城に帰るとご飯を食べてお風呂に入ってベットに入るとすぐに寝てしまった。

 そして翌日。

 僕は、早起きをし、ベットの近くにある机に誕生日プレゼントと手紙を置いておいた。

(起きた時が楽しみだ。ふふ!)と思っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る