第13話(3/4)


「お疲れさま」

 雅人さんは少しも酔ってはいない顔で俺を迎えた。ナナの横に座る。まかないの丼をテーブルに置き、改めて全員でジョッキを合わせた。

「お前ら、何か余計なこと言わなかっただろうなあ」

 仕事中ナナの笑い声が聞こえると心配になって、料理を運ぶ度に牽制したのだ。

「浩ちゃんは嫁に欲しいよねって話してたんだよ」

 また、この女は! 唇にこぼれたビールを拭いながら、にまにまと笑う顔を睨む。

「めちゃめちゃ料理上手で驚いた」

「でもこいつ家では全然しませんよ」

 雅人さんの褒めことばに照れる間もなく、みのるがすかさず言う。こいつは人の恋路を邪魔する気だな。そう思って頭を振る。阿呆か。

「でも部屋は綺麗だよ」

「それはお前が片づけに行くからだろ」

 ナナとみのるが言い合う。雅人さんは、へえと言ってふたりを見ている。

「いやお前ら俺をどうしたいの」

 このままでは俺の私生活が不用意に暴かれてしまう。雅人さんにはいずれ何を知られてもいいとは思うが、それにしても段階というものがある。

「でね、浩ちゃんの部屋、ジャンさんのポスターと雑誌だら――」

「っだああああ!」

 慌ててジョッキを置き、ナナの口を塞ぐ。ナナはこもった悲鳴をあげ、その手を掴んで大笑いしている。

「へえ、それは見てみたい」

 雅人さんは笑いをこらえた顔で俺を見た。ふたりのときにそんなことを言えば、照れて嫌がるに違いないのに。

「お前顔すげえ赤いよ」

 みのるまでからかう目を向ける。俺の手が緩んだ隙にナナが見に来ればいいじゃんと言う。再び口を塞いだが緩んだ隙に簡単に外されて、すかさず早口で言った。

「雅人さんって彼女いるんですか」

 ヘッドロックを食らわせて、痛い痛いと騒ぐナナの口を本格的におさえこむ。

「お前帰れ! 帰れもう!」

「いないよ」

 聞こえた声に停止する。

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