第13話(2/4)
「かしこまりました。ごゆっくり」
頭を下げると、雅人さんは下から上へと俺を見た。
「カッコイイじゃん」
にっと笑われて、顔が熱くなる。
「そんなん、あなたに言われたくないですわ」
「わ、浩ちゃんが調子乗らない」
ナナが目を丸くして、広げた手を口にあてた。みのるは眉を寄せて笑うという難しい顔だ。
「二人がいると普段の行いが見えていいな」
片眉を上げニヤニヤと笑う雅人さんを睨む。後ろではナナが両手で口元を覆って上目で笑いをこらえている。何だその目は。視線で問いかける。ナナは肩をすくめて視線を外し、なぜか忍ぶように、ゆっくりと身体の向きをテーブルへと向けた。手を下ろした口元がムズムズと動いている。もう完全に、「お前らデキてんだろ」顔である。
怒鳴りたいのをぐっと堪えて、唇の端から息を吐いた。
「あのねえ。いつも俺はこんなですから。とりあえず生でいいですか。あ、雅人さんはワインか」
ビールでいいよと言う雅人さんと、ワインとか超似合うと騒ぐナナ。みのるは冷めた目をしてこちらを見ている。俺は逃げ出すようにそこを後にした。
酒を運んで、乾杯を見守る。ジャンである雅人さんがジョッキを手にする姿はどうも違和感がある。すぐにワインを運んだあと、俺は料理にとりかかるべくキッチンへと戻った。
冷蔵庫を開けて材料を物色し、店のメニューを端から思い出す。メインは何にしようか。赤身の国産牛挽き肉がある。ハンバーグもいい。確か溶けるスライスチーズがあったはず。ジャンといえば薔薇と星くずだから、ここはやはり星の形に切るべきか……。そんなことを考えて、両腕に鳥肌が立った。
「死ね! 俺死ね! サムすぎる死ね!」
太腿を殴る俺をキッチンスタッフが驚いて振り返る。何を馬鹿みたいに浮かれているのだ。普段は思いつきもしないのに。そこにミコがやってきて興奮した声を出した。
「誰ですかあの超イケメン!」
普段から濃すぎると思っていたピンクのチークが今ほど違和感なく見えたことはない。調理を始めようとする俺の横顔を覗きこみ、期待に輝く目を近づける。
「俺の大事なお知り合い。不用意に話しかけるなよ。ナンパも厳禁」
「えーっ。でもまあ、あたしが声かけたところで、かなうような相手じゃないかぁ」
シンクに寄りかかって呟くミコは、唇をとがらせて首を折った。
「そうそう。俺らとは住む世界が違うの。そんじょそこらの女にゃ引っかからんのよ」
酷くないですかあ。低い声にはいはいと適当に謝る。ミコは怒った仕草でキッチンを出ていった。声をかけるなどとんでもない。そんなことは、彼が客でなくとも許さない。
続いて興奮したユウタがキッチンに入ってくるのをしっしと追いやる。
仕事ができたのは有難かった。手が空いていると気になって仕方がない。気づくと眉間が疲れている。いつもより気合いが入っているのだ。雅人さんのために作るのだと思うと、俺は楽しくてしょうがなかった。
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