第12話(4/4)
「でも妻子持ちなんだろ」
「それがさ、勘違いだった。妹さんと、姪っ子だって」
ついウキウキした声になる。
「えーフリーじゃん! やったね浩ちゃん」
ナナにとってはことごとく上手くいっている。みのるはストローを回しながら、冷めた声で言った。
「フリーとは限らないだろ、彼女がいるかもしれないんだし」
ガンと音を立てて俺の上に雷が落ちた。同時に雷が落ちたことにも衝撃を受ける。両手で頬を挟んで絶叫の顔をするナナ。何ショック受けてんだよと鋭く言うみのる。どちらも俺の心情を的確に表現している。
いや待て。いや良い。ホモになったらどうする、これは冗談で言っているのだからあくまで貫かなければ面白くない。俺はショックを受けるべきだし、このリアクションは今の場に相応しい。
「大丈夫、浩ちゃん。神社行こう。またあたしがお願いしてあげるから。ジャンともっともっと仲良しになれますようにって」
無理に屈折させたところで、ナナのことばに胸を打たれているからどうしようもない。
俺の頭の中は暗くなった。そうか。結婚はしていないとしても、女はいるかもしれない。なぜそんなことに気づけなかったのだ。
携帯が震え、テーブルの上をわずかに移動した。ナナが高い声で、ジャンじゃね? と言う。彼女のそういった男の真似は酷く愛らしく俺の気に入りだ。メールは確かに雅人さんだった。冷やかすようにひゅうと言うナナに、本気で照れたのを誤魔化すため、やめろよと大げさに芝居を打つ。
彼のメールには、一週間後に迫った約束を、一日早めたいという旨が書かれていた。
しかも、俺の店に来ると言う。仕事を終えてそのまま飲もうと言うのだ。
約束の日が夜勤明けでは辛いだろうと心配した彼に、俺は前日の九時に上がるから大丈夫だと知らせていた。
「マジで! あたしもジャンに会いたい!」
えー、と唇を歪めて言うと、ナナがふくれっ面をした。
「あたしが神様にお願いしてあげたからジャンと仲良しになれたんじゃん! お願い会わせて会わせて会いたい会いたいー」
子どものように両腕をばたつかせる。半笑いの顔がいかにも芝居だ。俺は我侭を聞き入れるお決まりの流れのために、しょうがないなとうんざりしてため息を漏らした。
両腕をあげて喜ぶナナに笑いながらメールの返信をする。雅人さんを店に呼んでひとりにしておくわけにはいかない。俺が仕事を終えるまで、みのるとナナを相手にしてもらえれば心配はない。
承諾のメールが届いて携帯を置いた。氷の溶けたジンジャーエールを吸って頬杖をつく。ふたりで会いたかったのは事実だが。ぽつりとそんなことを考えて、頭を振る。
「心配しなくても、浩ちゃんの仕事が終わったら邪魔者は退散しますよ。ねー」
ナナが年寄りじみたことを言って、みのるに同意を求めた。みのるの顔は物語っている。ドン引き、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます