呪いの泉
男が姿を消した村では、奇妙な噂が流れていた。
「願いを叶えてくれるという泉で、男が行方不明になった」
と。
それでも、願いを叶えてくれるという泉への興味は絶たれず、またひとりの男が森へと向かった。
「行方不明になった男は、きっと、バカな男だったんだ。願いを叶えてもらう方法を知らなかったに違いない」
この男、実は病が治った父親に一部始終を聞いていた。
泉を前にした男は、辺りを見渡す。
「へへ……娘が小石を投げたら、金になって返ってきたと言っていた。俺は、小石なんかなげないぞ」
大きな石を探していると、ふと岩があるのに気づく。
「お、いいのがあるじゃねぇか」
男は必死になって岩を押し始める。
どのくらいが経ったことか。
すっかり辺りが暗くなったころ、岩はついに泉へと落ちていった。
ボチャンという大きな音とゴンという鈍い音が聞こえた。
「や……やったぜ! これで大金持ちだぁ!」
男は歓喜の叫びを上げる。
しかし、待てど暮らせど、女神は現れない。
それどころか、泉は輝かず、水面が揺れるだけだ。
「あ~、はやく女神様が現れて、俺の望みを叶えてくれないかな~」
にんまりとした男が泉を横目で見る。
すると、男はようやく異変に気づいた。──泉は黒く、いや、赤く濁ったものが沸き出している。
「な、なんだ? これは……血だ!」
血の気が引いた男はうろたえる。そこへ、ぬっと泉から青白く細い腕が伸びた。
「私にこんなことをして……許さない」
しばらくして、泉には近づけないようにしめ縄が張られた。
真っ赤な水面になった泉は、いつしか呪いの泉と呼ばれるようになり、誰も近づかなくなった。
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