回り者

 あるところに宝石商の男がいました。その男の商売は順調で、ある日今までにない高価な宝石を売る契約を取れました。

 あまりにも順調に商売がまわりだしたので、男はその高価な宝石を売ったお金を目的に、ずっと欲しかった物を買おうと思いました。

「高価な時計を下さい。ただし、三日だけ待って下さい」

 時計屋は大いに喜びました。

「喜んで三日待ちましょう」


 時計屋は今まで欲しかった高価な服を買おうと思いました。呉服屋に連絡をします。

「高価な服を下さい。ただし、四日だけ待って下さい」

 呉服屋は今まで欲しかった高価な眼鏡を買おうと思いました。眼鏡屋に連絡をします。

「高価な眼鏡を下さい。ただし、五日だけ待って下さい」

 眼鏡屋は今まで欲しかった高価な鞄を買おうと思いました。鞄屋に連絡をします。

「高価な鞄を下さい。ただし、六日だけ待って下さい」


 鞄屋はあるところに連絡をしました。

「すみません。契約した宝石ですが、支払を一週間だけ待ってくれませんか?」

 宝石商の男はびっくりました。その宝石を売ったお金で高価な時計を買おうとしていたのに、お金が予定の日に入らなくなってしまったのです。

「わかりました」

 残念ですが、申し出を受け入れるしかありません。

「入る予定のお金を目的に、今まで欲しいと思っていた高価なものを買おうとするんじゃなかった」

 宝石商の男はお金が用意できなくなってしまったので、キャンセルの連絡をすることにしました。

「すみません。予約していた高価な時計ですが、キャンセルさせて下さい」

 時計屋は残念そうな声で、

「わかりました」

 と、言いました。


 時計屋は予定していたお金が入らなくなったので、呉服屋に連絡することにしました。

「すみません。予約していた高価な服ですが、キャンセルさせて下さい」

 呉服屋は予定していたお金が入らなくなったので、眼鏡屋に連絡することにしました。

「すみません。予約していた高価な眼鏡ですが、キャンセルさせて下さい」

 眼鏡屋は予定していたお金が入らなくなったので、鞄屋に連絡することにしました。

「すみません。予約していた高価な鞄ですが、キャンセルさせて下さい」


 鞄屋はあるところに連絡をしました。

「すみません。予約していた高価な宝石ですが、キャンセルさせて下さい」

 宝石商の男は声になりませんでした。しばらくして、ようやく了承の返事をしました。

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