正直者2
森の奥にある泉には、女神様がいるという。その泉に物を落としてしまうと、
「あなたが落としたのは、金の〇〇? それとも、普通の〇〇?」
と、聞いてくるらしい。
正直者には金の〇〇、嘘つきには返してもらえないという。
ある日、ふたりの男が言い伝えを確かめに盾を持ってやってきた。ひとりは金の盾を手にして歓喜し、ひとりは大切な盾を失って悲しみに伏せていた。
金の盾を手にした男が言う。
「いやぁ、お前のお蔭だ。これで大金が手に入るぞ! ほら、帰ったら山分けだ」
「俺のお蔭だと? ふざけるな、お前のせいだ!」
悲しみに伏せていた男は体を震わせて叫ぶ。そして、怒りのままに金の盾を手にした男を持ち上げる。男は驚き、金の盾を落とす。体は泉へと消えていった。
泉がきらきらと輝く。
「あなたが落としたのは、金の男? それとも、普通の男?」
現れたのは、きらきらと輝く女神。その両手にはキリリとした表情の男と、さきほど泉に落ちた男がいる。
「お前……俺だ、もちろん、俺を選ぶだろ?」
さきほど泉に落ちた男が騒ぐ。青ざめながら。
「俺が落としたのは、腐った男だ。普通の男じゃない」
「なんだと!」
女神に掴まれた男が暴れようと、なにかを吹っ切った男は見向きもしない。
「その両手に持つ男など、望みはしない。女神よ、お願いだ。先ほどの普通の盾をどうか返してはくれないか!」
両手をつき懇願する男に、女神は微笑む。
「あなたは本当に正直者なのね。私はその正直な心が大好きよ」
女神の言葉に、青ざめた男の顔が更に青ざめる。
「まずは、この金の男をあなたにお返ししましょう。そして、あなたの正直な心を称えて、あなたの大事な盾だという、盾をお返ししましょう」
両手をついた男の前に、女神の言ったものが現れる。
「待って、女神様! 俺は、俺は……」
青ざめた男の声が聞こえなくなると、女神も消えていた。
「さぁ、帰りましょう」
キリリとした表情の男は、両手をついた男にさわやかな笑顔を向ける。
大切な盾を取り戻した男は、盾を抱くと泣いた。
帰った二人は金の盾を売って村を豊かにした。村人は帰ってきた男がキリリとした表情になっていたのを歓喜し、歓迎したという。
その後、泉は『願いを叶える泉』と言われるようになった。
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