第七幕:同様
「どうしてるかな…"彼"は…」
「何?」
「いや、なんでもない」
「それで結局、齋藤幹男はシリアルキラーだったから殺してもいいと思った、とでも言うつもりか。それがお前の動機か」
「斎藤の件は状況が特殊だが…本当に、正当防衛ではダメかな?」
「…」
「ああ申し訳ない、でもふざけてはいないよ」
「…では最後の殺人は」
「…あれは唯一、目撃者を出してしまったな」
「しかも、この物証もだ」
「ああナイフ…それ結構高かったんだ」
「そんなことはいい」
「…あれが私の日常だ。まあその点で考えると斎藤も同じ経緯だったのだが」
「日常だと?」
「そうだ。あなたたちも、日々犯罪者を捕まえているじゃないか」
「…それが?」
「私も日々、鬱陶しい人間を殺していた。そういうことだよ」
「…気違いめ」
「これは手厳しい。私の選定基準は厳密だぞ。まずその人間の社会性、生産性を見る。どんな普段どんな仕事をしていて、どんなことができるのか。そして価値観を確認する。どのような思想信条で動いているのか。そして場合によっては家系や交友関係エトセトラ…」
「要するに、お前の気に入らない人間を殺していたんだろ」
「その通り。あなたたちと同じ様に」
「………」
「うん?ピンとこないかな」
「…何?」
「あなたたちだって、普段から殺しているじゃないか。気に入らない人間を。死刑や戦争や正当防衛という形で。いや殺さないまでも、隔離したり追放したりしている」
「馬鹿なことを」
「コミュニケーション能力が低い人間を雇うサービス業は有るか?パソコン1つ使えない人間を事務で雇うか?それは社会性や生産性、能力による差別だ。私の殺しの選定基準と同じじゃないか。価値観による差別なんかもっと露骨じゃないか。どこかのニュースであったな、爬虫類を飼っているからという理由だけでコンビニの店員が解雇されたんだ。気持ち悪い、とな。思想信条の自由?とんだ綺麗事だ。家族によっても差別する。自分の妹と、見ず知らずの男、両者の首に爆弾が仕掛けられていたとして、一個しか解除する時間は残されていない。どちらを優先する?……結局、自分たちが、自分が、気に入るか気に入らないか。それが全てなんだよ」
「…だが、お前はただ身勝手なだけだ」
「は?」
「お前は自分だけの勝手な判断で、人を殺した。相手がどんな人間たちだろうと、お前はただの殺人狂だ。身勝手な人殺し、ただの悪人だ」
「………どうやら、結局のところ理解してもらえなかったらしい」
「ああ、狂人の言葉なんかわかってたまるか。調書にはそのまま書かせてもらうがな」
「…世界は単純だ」
「ん?」
「人間の解釈がそれを複雑にしている」
「どういう意味だ」
「別に…調書にはそのまま書いてもらえばいいだろう」
「………」
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