第六幕:自供

「……俺は刑事だ」


「…」


「お前はただの犯罪者でしかない」


「………本当にそう思う?」


「…」


「…斉藤幹男」


「…!」


「去年の8月ごろだったな、彼と会ったのは」


「…」


「いやあ、斎藤の家に行ったときは驚いたよ。何となくはある奴だと思っていたんだが。…聞いてる?」


「…ああ」


「奴が紅茶に睡眠剤を入れるのを目撃する前に、もう確信していたな。こいつはだと」


「…それで、どうしたんだ」


「後ろから忍び足で近づいて、ナイフで右腕を刺した。利き腕を潰したんだ。それから奴が振り向いたところで左腕も刺した。三回ぐらいだったかな。ああー、ものすごく驚いていたな」


「…そりゃそうだろうな」


「で、痛がってるところで腹を二三回刺した。すぐには死なないところだ。それで私は、出血多量で死にたくなかったらと言った。そしたら奴は急に元気になって、喜々として私を地下室に案内した」


「…」


「あの地下室はすごかったな!アイアンメイデンからファラリスまで何でも有った!もし機会があれば行ってみるといい」


「もう行ったよ」


「ああ…そうか。それで私は、一番のお気に入りは何だと訊いたんだ。そしたら奴は満面の笑みで「ファラリスだ」と言った。だから私はそれで殺してやることにしたんだ」


「…」


「雄牛から出るくぐもった叫びが止むのを待つ間、そこにあったパソコンのデータを見ていた。そこにあったよ。村田」


「村田美菜」


「…そう、村田さん、あなたの妹さんだ」


「…」


「妹さんは、丸鋸付き寝台だったな」


「…」


「性器の部分から段々上にいくんだ。骨盤が砕かれてもまだ生きている。アドレナリン注射で意識もハッキリだ。上に置かれた鏡で自分の様子がわかる。自分の下半身が段々と」


「やめろ!!!!」


「…すまない、あんまり美しかったんでな」


「…お前も所詮異常者だ」


「だがその異常者が知らず知らずのうちにあなたの妹の仇を討っていたんだ」


「それがどうした!!」


「私が斉藤幹男を殺さなければ、まだまだ被害が出ていただろう」


「それは結果論だろ!!」


「そうだ。結果論の何が問題なんだ?」


「なっ…」


「斉藤幹男があんな最期を遂げて…喜んでいる遺族は何百人だろうな」


「……」


「…あなたも喜んだ?私を英雄だと思った?」


「…斎藤殺しは認めるんだな」


「あれは正当防衛じゃないか?」


「ふざけるな!ナイフで先制攻撃した上に拷問器具で殺して何が正当防衛だ!!」


「雄牛には自分から入っていったんだが…」


「そういう問題じゃない」


「でも物証がないだろ?」


「…」


「ふふ、こう見えて私は几帳面だからな。痕跡を消すぐらい朝飯前だ。なぜ斎藤に刺傷が有ったのか、今の話でやっと理由がわかったぐらいじゃないか?」


「…」


「まあ日本の鑑識は優秀だ。それでも私の痕跡を見つけられなかったんだから気に病むことはない。それに、この殺人は大して重要でもないだろう」

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