第3話

  僕と小清水先生は警察に呼び出され、そこで事情を聴かれた。小清水先生はロブの育ての親も同然だったし、ロブと最後に話したのが僕だったのだ。


「しかし遺書もありましたので、我々は自殺と判断しています」


「遺書?」


「二通ある。君あてと小清水教授あてだ」


 僕はロブの遺書を受け取った。しかし、すぐには遺書を読まなかった。


 長時間HGDを着けていると頭が痛くなるので朝に読書を済ませた僕は、今日はもうHGDを使わないことにしていたのだ。


 小清水先生はロブの遺書を受け取ると、さっと顔色を変えた。


「……そうか。やはりロブへも楽園への扉は開かれたのか」


「楽園への扉?」


「いや、なんでもない。私は午後の講義があるのでこれで失礼するよ」


「はい」


 小清水先生が部屋を出ていき、僕も部屋を出た。


 すると部屋の中から刑事さんたちのこんな会話が聞こえてきた。


「怪しいですね」


「怪しい? なにがですか?」


「息子同然に育ててきたはずの男が死んだんだぞ? それがあのあっさりとした反応」


「確かに」


 確かに、小清水先生の反応は、あっさりを通り越してどこか嬉しそうにも見えた。

 僕の心の中に、何か黒いモヤモヤした影が忍び寄ってくる。


「それに自殺者はあの黒人だけじゃない」


 刑事さんは続ける。


「自殺したのは他にもいるんだ。先月亡くなった小清水教授のゼミ生。小清水先生の奥さんも去年自殺している。怪しいなんてもんじゃないさ。でも、証拠がない」


「怪しい研究でもしてるんじゃないか? 自殺を唆す催眠実験とか」


 それを聞くと、僕は急いでその場を走り去った。

 小清水先生が怪しい実験をして、ロブを殺した? でも一体、何のために?


          

       *



 僕は家に帰ると、ネットで「自殺 催眠」で検索し調べてみた。


 すると、催眠術が自殺に繋がった事件がいくつか出てきた。


 米フロリダ州では数年前に、高校の生徒3名が次々と自殺。

 共通していたのは、彼らが通っていた高校の校長から催眠術をかけられていたということ。保護者らは校長の責任を追及していたが、校長は特に罪に問われることは無かったのだという。

 小清水先生も、このような手法でロブや奥さんを自殺に追い込んだのだろうか?


 次に僕は小清水先生のことについて検索してみた。


 出てきたのは小清水先生の怪しい噂だった。

 噂によると、小清水先生は怪しい新興宗教にハマっており、そこで人類を「楽園への扉」へ誘うという活動をしているということだった。


 楽園への扉......以前もそんな話を聞いたような気がする。だが、一体それは何なんだ?


「そういえば、ロブの遺書をまだ読んで無かったな」


 僕は白い封筒を破り開け、中に入っていた手紙を広げた。

 そこには大きな拙い文字でこう書かれていた。




  「らくえん げんごは よむな」


 

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