【京都の冬】「京都南座」ー四条大橋で(全員集合)

 十二月の鴨川の水は冷たく、殺風景だ——。

 遠く比叡の山からやって来た北風は、京都の街を冬色に染める。


 潤と瑞穂は、傍に柴犬のサスケを伴って鴨川の遊歩道を歩いている。

 ——すっかり、冬景色だね、鴨川も

 ——そうだね…… まだ北山には雪は降ってないみたいだけど


 冬の陽射しは弱々しくて、雲に太陽が隠れてしまうと川面を吹く風の冷たさは増して、散歩する人々の足を急がせる。


「四条大橋」の上には、和服姿で一人佇む女と、少し離れたとこに男が一人立っているのが見える。

 誰かを待っているのだろうか——、と瑞穂が興味本意に眺めていると、サスケが何かを見つけたのかリールを引っ張った。

 向こうから、を散歩させるカップルがやって来た。


 ——ふふ、サスケも彼女欲しいの?


 瑞穂は、リールを少し緩めてやり、サスケの思いを助けてやる。カップルの女性は少しぽっちゃりしてるけど、愛くるしい笑顔を男に向けて幸せそうだ。

 男も女の背中に手を廻して愛しそうに女の腰を抱いている。


 ——ねー、潤っ

 ——ん?

 ——潤の珈琲が飲みたいよ

 ——いいよ。帰ろっか


 瑞穂がリールを引っ張ると、サスケが不満そうに二人を見上げた——。


 ——————————🐕


「四条大橋」を東山に向かって渡ると、そこには「京都南座」がある。

 新しい「まねき」も設えられて、京都の年末の風物詩である「顔見世興行」が始まっていた。



 河北正夫、陽子夫妻は、毎年「南座」の「顔見世興行」にやって来ていた。今年は、正夫も齢八十を超え、妻の陽子に脇を支えられてやってきた。

 正夫は、勘亭流で書かれた「まねき」を仰ぎ見て、ゆっくり白い息を吐いた。


 ——ああ、今年も終わりだね、おかあさん

 ——そうですね。「まねき」っていつ見ても優雅ですね


 陽子は、夫の正夫の脇に手を廻してゆっくり「南座」の中に入っていった。

 その二人の後ろに続いて、ちょっと場違いな若いカップルが券を求めて並んでいた。


 ——スズ、ってこんな趣味あったっけ?

 ——トキオもだな、歌舞伎の奥深さを味わってみろよ、ハマるぞッ

 ——(いやいや、それはない)


 スズは、東京からトキオを共だってやってきた。二人とも就職した一年目で忙しいのにも拘らず、スズのワガママな一声で決まった。


 ——来週さ、とって京都に行くよッ。見に行くんだ。いいなッ

 ——オレ、いかねーし

 ——なんだってッ? 

 ——だからぁー、イカねーって

 ——カノジョをだ、一人で京都に行かせるカレシがどこに居るんだよッ

 ——オレ、 だし

 

 トキオはしこたま上司から冷たい声を浴びたけど、なんとか有給をとってスズのお供をしてやって来た。「パート彼氏」は卒業したらしいけど、スズに言わせると、それは「仮免かりめん」で、まだ「マジカレ」じゃないらしい……。


 ——成駒屋ーーッ!!


 スズの合いの手、掛け声は、「南座」の中で一際目立った。


 トキオは、「成駒屋」が誰なのかは知らないけれど、歌舞伎に夢中なスズの横顔をチラっと盗み見て……


 来年こそ、屋ーッ!!——。


 そんな合いの手を自分に掛けてやって、ニヤニヤした————。



 京都の街にも、もう少しで新しい年がやってくる。

「四条通り」の東詰めには「八坂神社」がある。京都人は大晦日の夜、除夜の鐘を聴きながら「おけら詣り」に出掛けるのだ——。


「八坂さん」で頂いた「おけら火」を火縄に移して、帰り道は消えないようにそれをくるくる廻しながら歩いて帰る。

 元旦の朝、その火で雑煮を作ると、一年が無病息災で居られるという———。



 千三百年の歴史がある京都——。

 その懐は深く、その表情は四季折々。


 京都には、いろんな想いを抱いた人々がやってくる。

 来たる新年が良い年でありますように———。

 京都のあちらこちらの塔頭で鳴り響く百八つの梵鐘は、京都人とそこに訪れる人々の幸せの願いを込めて、一つ、一つ、、、打たれ、京都盆地の夜闇に消えていく。


 そして、また新しい年が始まるのだ———。



【京都の冬】「京都南座」ー四条大橋で(全員集合)


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