❄️——これより冬——🎄

【立冬】「音羽山清水寺」ーオレはパート彼氏

【立冬】 冬の気立ち初めていよいよ冷ゆれば也(暦便覧)


 新暦では十一月七日ころ。「二十四節気」、十九番目の「節気」で、これより冬となる。北国からは初雪の便りも舞い込んで来るころで、風は冷たく、いよいよ草木は冬篭りに入る。


 十一月の京都は、紅葉のシーズンであり、神社仏閣の紅葉を愛で来る人々で賑わう。鴨川に白たつ水しぶきも冬の渡り鳥には心地いいのかもしれない。

 京都の紅葉の名所は数あるが、案外と気づかないのが「音羽山 清水寺」だろう。「清水寺」と言えば、産寧坂、二年坂、八坂の塔と来るが、案外とから見下ろす色づいた紅葉も壮観なのです。


............................................




 トキオは両手に紙袋を下げ、産寧坂の石段を息を切らしながら登っていた。

 先を行くスズの背中は、もう見えない。


 しこたまのお土産を行くところ行くところで買ってはトキオに持たせて、自分はさっさと先を行き、高々と掲げて「大好き、わたし」を乱写し、恍惚の微笑みをたたえているんだろう。


 ——チッ、どんだけ自分大好きなんだよ


 トキオとスズは幼馴染で、幼稚園から大学まで一緒で、スズに言わせると腐れ縁らしい。トキオはの林檎みたくな男子。片やスズは文句の付けようのない美麗女子。そんな不釣り合いな二人がカップルになった——、いや正確に言うと、期間限定の「契約カップル」だけれど。


 スズは、卒業旅行に京都を選んだが、友達女子は誰もスズとは行ってくれない。そりゃそうだ、スズの引き立て役にされるのはもうゴメンだって感じなので、何か理由をつけて体良く断ってくるのだ。そんなわけで、仕方なしにトキオに白羽の矢が立ったわけである。


 ——ねぇ、私のカレシになってよ

 ——はぁ?……

 ——なに?、ワタシのカレシがなの!?

 ——スズが、オレに頼みごとする時って、ロクなことねーし


 スズは真っ赤なピンヒールを組んだ足の先でブラブラさせて、不気味に微笑む


 ——トキオさぁー、ごめっん!、ちょっと言葉足らずだったわ

 ——へ?

 ——ワタシの「パート彼氏」になって、って言いたかったの

 

 要は、こういうことだった。


 時給600円、飯付きで、京都旅行に付き合え——、ってことだ。


 スズのネーミングによれば、それを「パート彼氏」と呼ぶらしい。


 ——それなら別に俺じゃなくても、他にいくらだっているだろ

 ——トキオじゃないと、ダメなのッ!!

 ——えっ


 トキオは、ちょっぴりドギマギして身構えた。


 ——だってー、トキオは人畜無害じゃん。間違っても、は起きないし


 (はいはい、つくずく自分のオメデタさが嫌になるよ)——。


 ——まっ。金になるなら、いっか


 時給600円とはいえ、8時間労働なら4800円になる。おまけに、飯付きだし。ここんとこ就活が忙しくて、バイトのシフトに入る回数が減っていたので、助かるっちゃ、助かる。


 トキオはフッと鼻息一つ吐いて


 ——わかったよ、やるよ


 しかし、その労働形態はまさに「ブラックパート」——そのものだった。

こんなことなら、いつものバイトのシフトに入っとくんだったと後悔しても後の祭りで、散々こき使われ、足はパンパン、腰はギクギクで這うようにして東京に帰ってきた。


 そんなこんなで地獄の二泊三日、「スズ様の卒業記念旅行@京都」が終わった。


 あくる日、大学でスズからバイト代を受け取る予定だった。自分の計算じゃで、2万くらいにはなってるはずだった。


 ——トキオ!、ご苦労様でした

 ——おう

 ——はい、バイト代ッ


 スズは1000円札2枚をトキオに手渡す。

 ——んがぁ?

 ——ナニ?

 —— 1桁違うんじゃね? 諭吉さん2枚だろ?

 ——なに?、文句あんの?飯食わしてもらって、おまけに京都観光までできたんだよ? しかも、このワタシとだよ?


 ——契約じゃ、時給600円だった……よ、な


 スズの顔が怖くなって、シッコ、そうな飛ばしてくる


 ——トキオ?、そんなケチだといつまでたっても彼女カノジョとか、できないよ?

 ——ケチ、で結構ッ 

 ——ちっちゃい奴ぅー

 ——ちっちゃくて結構ッ

 ——出世しないよ?

 ——出世しなくて結構ッ

 —— (……)


スズが眉をへの字にして、今にも泣きそうになっている


——トキオだけが、私の理解者だって、ずっと、ずっと……思って……たのに


スズはその場にしゃがみ込んで、オイオイと泣き出した。


——ちょっ……

——ずっと、ずっと……思って、た、の、にぃーーーーー!!


スズがこんな風になるともう手が付けられないのは、長い付き合いで知っていた。トキオはそんな時の対処法もちゃんと心得ている。


——わかった、わかったよ……諭吉君じゃなくて、いいからさ……

——!? ……ホント? 

——ん

——あんた、ほんと馬鹿だねー


 スズが、、っと立ち上がり仁王立ちに。

え?、今しがたまでの泣きっ面はどこへ行った?——、って勢いで


——トキオさぁ、いい加減学習しないとさー、そんなんじゃ就職して社会に出たって立派に世渡りできないよ?

——いいんだよ オレは、これでずっとやってきたし

——また、この先もずっと、ずーっと、ワタシに騙され続けるんだよ?

——ナニをいまさら

——だからぁー、、だよ?

——いいんだ。オレは、世渡り下手で結構ッ, 一山いくらで、結構ッ!


そしたら、また、スズが泣きっ面を作って


——バカっ! 、お人好しッ! 、鈍感ッ!!


——どうせ、オレは、バカでお人好しで、……、鈍感で、ドン感???


——もぉー!! 世話の焼ける鈍感オトコ!!



.......................🍎


 でね、スズはオレに、当然今までにゼッタイ味わったことのないような甘いキスをさ、くれたんだけど……。



 

これってさー、オレ……またダマされてんのかな?


ねー、どう思う?———。



【立冬】「音羽山清水寺」ーオレはパート彼氏   了


                 千葉 七星













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