【処暑】「上賀茂神社」ーヤクタタズなお守り

【処暑】、「二十四節気」の十四番目の「節気」。


 陽気とどまりて、初めて退きやまんとすれば也——。「暦便覧」


 朝夕の風に混じる涼しさが増して来て、萩の花が咲く頃。

 八月の二十三日ころ——、がそれにあたる。


 京都では「五山の送り火」が終わり、無事にご先祖様をお見送りして、そろそろ九月の行事のことなんかに想いを巡らせる頃。

「処暑」は暑さが、止むという意味だけれど、いやいや、まだ「京都の夏」は居座り続けてます。


「出町柳」は洛北から来る「賀茂川」と「高野川」が合流し一本となって「鴨川」となる地点で八瀬や鞍馬へゆく「叡山電車」の始発駅がある。


 その「賀茂川」沿いに右手に「左大文字」の大北山をみながら北に歩くと

「賀茂別雷神社」——、そう五月の「葵祭」で有名な「上賀茂神社」の一の鳥居が見えて来る。この辺りの「賀茂川」の水は四条辺りのものと比べると急峻で、川べりの野草も力強く、雅というより「北面の武士」でも歩いてそうな男性的な雰囲気がある。


 井川桜子は、昼間あんなにも威張ってた陽射しが少し弱くなり始めたころ、「上賀茂神社」の社務所で「お守り」を買っていた。


「上賀茂神社」には、「雷除け」のお守りが売られている。黒に金糸の細工のものだったと思うが、全国のゴルフ場のさんの間では有名な「お守り」で、特に夏の時期によく売れるらしい——。


 ——三つ下さい。


 桜子は社務所の巫女さんからお金と引き換えに手渡された三つのお守りを大事そうにトートバックの奥にしまった。友達のキャディーから買ってきてと頼まれたのと合わせて三つだった。


 これで京都に来た一番の目的を終えたので、河原町辺りまで戻ってカフェでゆっくりしようと、ふと空を見上げると今まで浮かんでいた白い綿雲が、日焼けして真っ黒な「入道雲」に追われるように急ぎ足で退散して、どこか遠くで雷が鳴り始めている。辺りも暗くなってきて、つむじ風みたいな乱暴な風が境内に吹き込んできた。


 いまにも一雨来そうだった。


 ——や、っばいなぁー、降ってきそう

 

 桜子は、一の鳥居まで走っていけばそこでタクシーが拾えるかもしれないと、社務所の軒下から一歩踏み出した。

 その時、辺りが稲妻の閃光でパッと一瞬明るくなり、続いて大きな雷鳴が轟いた。


 桜子は小さ時から雷が大嫌いで、キャディーという仕事をしている今でも、雷が鳴り始めると心細くなって仕事も上の空になってしまうくらいだった。


——きゃっ!


 両の耳を抑えるようにしてしゃがみ込んでしまった。

埃っぽい匂いがとした後、境内の玉砂利に大粒の雨が落ちて来た。

桜子は恐々こわごわ顔を上げて空を見上げると、黒い雲の奥からギザギザした閃光がまた一本落ちて来て、思わずギュッと目を瞑ってしまった。


——雷、嫌いなの? 


 その声で気がつくと、桜子の横に男がで空を見上げている。


——(………)

——オシッコ、チビっちゃった?


 その男の横顔をキッ、っと睨みつけて……、みたけれど……。


 黒い空を見上げている鋭角な顎からくっきり角ペンで描かれた鼻梁——。


その上に寝待月ねまちづきの瞳がウルウル光っていて、仰角を差し引いてもきっとタレ目なんだろうと思える目尻はいつも笑ってる風で、瞬きするたびにパタパタ揺れる睫毛はBLに出て来る男の子みたいで———。



ドドっ、ドぉ———————ン


雷の閃光が桜子の脳天に落ち、心臓ハートを撃ち抜いた。

壁ドン——、じゃなく 


だらしなく半開きな口から、ように出てしまった言葉が


—— ド・ストライク……


これまた、なんとも…… 恥ずかしい。




三つも買った「雷除け」お守り——、ヤク、タタズめっ。




【処暑】「上賀茂神社」ーヤクタタズなお守り  了


                    千葉 七星

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