🍁——これより秋——🍂

【立秋】「鞍馬貴船神社」ー水占いのご利益

【立秋】、新暦の八月七日ころ。


 暦の上では、この日から秋となるが、実際には暑さたけなわである。

 とは言っても、一日のうちでほんの微かであるが「夏」が弱くなっていく気配を感じる時がある。「暑中見舞い」もこの日以降は、「残暑見舞い」に変わる。


 京都の夏は、酷暑と言ってもいいだろう。


 ほとんどを山に囲まれた盆地で市街に溜まった熱は放射することなく、この先「五山の送り火」——、「大文字焼き」まではまだまだ酷暑は続く。


 そんな中、涼を求めるなら、京都の奥座敷「鞍馬」の「貴船神社」を訪れるのがいい。参拝後は、貴船川の清流の上を吹き抜ける涼やかな風を愉しみながら、あゆなどを食すことのできる「川床」が一興だ。


 五月サツキは、貴船川の冷たい川の水に足を浸しパシャパシャと水を蹴ってよこす。

 そんな無邪気な横顔の五月サツキが愛しくて、じっと見つめていると


 孝太もおいでよ、気持ちいいよ——、と言って僕に手招きしてきた。


 彼女は、大きめの石に腰掛けて、さっきまで被ってたストローハットを脱いで、それを団扇うちわ代わりに胸元に貴船川の風を送り込んで、涼しげに佇んでいた。


 薄い水色のワンピースの裾からのぞく五月サツキの足は純白で、汚れを知らない少女のように危うく、そして妖艶でもあった。


 僕はその白い肌を、五月サツキの全身に想像して昨夜の情事セックスを思い出していた。


 ——私って、ね……愛人体質なんだー

 

 今しがた、五月サツキの体の奥に熱い樹液を流し込んだとこなのに、彼女はシレッとした風に言う。


 ——だから、なに?


 ——だから、孝太の奥さんにして、とか言わないよ?、安心して

 ——安心……か、ふふ


 五月サツキは僕の口からタバコを取り上げると、一口吸ってくうに向けて吐いた。

 タバコを指で挟むこともしないで、少し半開きのぽってりした唇に挟んで

 煙が染みるのか片目を閉じている。その睫毛が長くてドキっとした。


 結婚したいとか思わないのか、五月サツキは——、と馬鹿げたことを言ってしまって、それを誤魔化すように


 ——ほら、同じ課の男にコクられたって、この前、言ってたじゃない


 五月サツキは、長く今にも落ちそうなタバコの灰を手で受けて、灰皿に揉み消すと


 ——そんなの、嘘に決まってんじゃん

 ——なんだ、嘘か……


 五月サツキは華奢な背中を僕に向けて拗ねたフリをしている。

 いつものことで、慣れている。


 その背中にそっと薬指の腹で、ゴメン——、って書くと彼女の機嫌が直る。

 それも、いつもの儀式。


 ——孝太、いっかい!


 そう言って、また僕にセックスを強請ねだる。


 だから僕はまた彼女の裸体に絶対消えないキスマークを付けようと這い回り、彼女と繋がったなら、その先にまだまだ隙間があるんじゃないか、隔たりがあるんじゃないかって不安になって———、

 もっと、もっと、もっと奥へと突き上げるんだけど、足りなくて。

 彼女も、その「隙間」を埋めたいのか、腰を持ち上げ白い足で僕の腰を挟んで離さない。


 ——キャ……っ


 それは、彼女が昇りつめた合図。


 その一瞬、僕と彼女の体は1mmの隙間もないくらい密着して繋がって、僕は彼女の舌を絡め掬い取ったまま、果てる。


 それが、僕が、彼女にだけに唯一上げられるもの。

 五月サツキの花芯がピクっと震え、僕に伝える。



 受け取ったよ——、と。



 💜—————————


 わたしは、さっき「貴船神社」で引いた「水占い」のおみくじをそっと、川面の浸してみた。


 ——————「凶」———————


「御神水」に浮かべなきゃ、見えないよ?——、って孝太は言ったけど、そんなことは知っている。

 浮かび上がって来る「文字」が怖くて、できなかっただけよ。


 ほら、やっぱりね——。



 古の平安朝の歌人、和泉式部が授かった「縁結び」のご利益にはあやかれ無かった。

 私は、ってなってそっとスカートの奥を覗き込んだよ——。



 そこには消えたはずの孝太の愛情の証が、埋め合わせだよ——、って感じで派手に浮かんでたから……、それで許すことにしたよ。


 ♠️—————————


———おみくじ、だって?



 僕は、そう聞いたけど、五月サツキはただ微笑んでる——、だけだった。


「鞍馬」の山には、もうヒグラシが鳴き始めていた。




【立秋】「鞍馬貴船神社」ー水占いのご利益  了


                   千葉 七星


 

 



 

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