だって、違うんでしょう?


 細い腕、華奢な体、深く被ったフードの奥に見える瞳は、鮮やかな秋桜色をしていた。

 


 僕はその姿をみて、一瞬で恋に落ちた。


 彼女は僕の理想の女の子だった。


 みすぼらしくて、自信のない僕は違って、彼女の眼には炎が宿っている。射るような視線は、きっと僕の心を刺し貫いたのだ。そうでなければ、こんなにも勇気のない僕が、他人をじっと見つめてしまうなんて真似事出来るはずがない。


「…きみ」

「…ッ!」


 睨みをきつくさせた目元が、僕を捕らえた。すくんでしまう身体とは裏腹に、一瞬で心が満たされる。その眼に僕が映っているという事実が何にも変えられないほどうれしかった。


「何、見てるの」


 小さいけれど、はっきりと聞こえる声だった。彼女の眼と同じで強い意志を含んでいる音。とても、綺麗な音だった。


「べ、べつに…僕は見てなんか…」


 とがめられて尻すぼみになる言葉。僕の声は、彼女とは全く正反対だった。

 そのまま数秒、僕は彼女と見詰め合ったままでいた。


 それはとても幸福な時間だった。


 でも。

 もう二度と、彼女に会えることはないだろう。


「…なんだか知らないけど、邪魔するんなら容赦はしないよ」

「じゃ、邪魔なんて…」



 しないよ!そう続けたかった言葉は、飲み込まざるを得なかった。


 フードを取り払った彼女の頭には、欠けたツノが生えていた。



「だって、違うんでしょう?」



 彼女の冷えた声が、僕の耳をそっと貫く。



「きみたち人と、僕らは違うんでしょう?」



 強い拒絶を含んだ声。



 僕は何もいえないまま、その場に立ち尽くす事しか出来なかった。



 いつの間にか、彼女の背中は雑踏に溶け込んでいった。 




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