第4話 辞令交付式
そして、時間になった。
8人の日本の高校生は、何やら立派そうな薄暗い部屋に並んでいた。全員、深い藍色のセーラー服に似た襟を持つ制服を着ていた。これが保安隊時代からの、そして国連宇宙防衛軍に所属する軍人が正装として着る制服だった。普段はもっと動きやすく、体にぴったりとした戦闘服や宇宙用の装備を身に着ける。ただし、地上勤務の際や、このような正式な場所では、その上から上着のように、その場にあった制服を着るのだ。
先ほど受付でセンカたちが見た女性と、もう1人時々エントランスホールで見かける女性がいて、緊張した面持ちで何かを持っていた。
不意に、どこからか声が響いてきた。
「わたしは人類宇宙委員会のシャテンバーグだ。直接辞令を渡すことができず、申し訳ない。また、本来なら宇宙防衛軍の誰か、つまり君らの上司から渡すべきものなのだが……。このような非常時であるため、辞令交付式をきちんと行えないことをまずは詫びたい。」
8人はそろって敬礼をした。
「では、さっそく始めよう。国連宇宙防衛軍特別青年地球防衛班、通称チームゼロ所属、ハシモトショウタ。」
「はい。」
ショウタが前に出た。他の7人は敬礼をやめ、ショウタのほうを見つめた。
「本日20時をもって、戦艦オリオン戦術班に転属すること。任務については別途連絡する。明日戦艦オリオンに向け出発せよ。」
「はい。」
ショウタは辞令を受け取り、深々と一礼した。
「同じく特別青年地球防衛班所属、ウエキセンカ。」
「はい。」
「本日20時をもって、戦艦オリオン戦略班に転属せよ。」
「はい。」
センカもまた、深々と一礼して辞令を受け取った。
「同じく特別青年地球防衛班所属、シイナリンカ。」
「はい。」
リンカは先ほどの2人と違い、大きな声では返事をしなかった。しかしよく通る声のしっかりとした返事だった。
「戦艦オリオン情報班に転属せよ。」
「はい。」
「続いて、特別青年地球防衛班所属、ツツイコウスケ。」
「はい。」
ひょろっとしているが芯があり、思わず振り向いてしまう返事だった。
「戦艦オリオン技術班に転属せよ。」
「はい。」
「特別青年地球防衛班所属、オオノハルカ。」
「はい。」
すこし悲鳴に似た返事だった。
「戦艦オリオン、医務班に転属だ。」
「はい。」
「特別青年地球防衛班所属、ニイムラトウキ。」
「はい。」
「戦艦オリオン航海班に転属せよ。」
「はい。」
トウキの声には責任感が見え隠れした。高校生にしてはずいぶんと重い責任だったが。
「特別青年地球防衛班所属、スギヤマスズナ。」
「はい……。」
「戦艦オリオン、主計班に転属せよ。」
「はい。」
「特別青年地球防衛班所属、ニシオカタケル。」
「はい。」
「戦艦オリオン、建設班に転属せよ。」
「はい。」
タケルが最後に辞令を受け取ると、8人は再び一列に並んで前を見つめた。
「諸君らの健闘を祈る。」
ピィーと、音声通信が途切れた音がなった。
「では、今から今後の予定を説明します。」
あの受付の女性がタブレット端末を読み上げた。いや、もはや受付の女性と呼ぶことはできないだろう。彼女は本来の業務である受付以外の仕事も担当していた。それくらい本部には人がいなかった。皆、太陽系の辺境の彼方にいるのである。
「今後の行動の詳細は、すでに各自の端末に送ってあります。コスモクラウドサービス、CCSに防衛軍関係者専用回線でアクセスして、各自軍用のフォルダの中の新規アイテムを確認してください。そこに明日の戦艦オリオンへの航海の詳細データやスケジュールのファイルがあるはずです。不具合があればこちらに連絡をください。明日は朝食等、すべての準備を済ませて、10:00出発とします。」
「それでは、ゼロの整備はいつ行われるのですか。」
トウキが少し不満げに尋ねた。
「作業の大部分はもう終わっています。技術部の臨時ゼロ整備チームは、明日8:00から最終確認をするそうよ。」
「最終確認の立ち合いは認められますか。」
コウスケがすこし不安そうに尋ねた。
「整備チームが嫌がらなければ、構いません。ですが出発前ですから、ご自身の体のことも考えてくださいね。」
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