海の星に願いを捨てて

サトミサラ

バッドエンドとユーフォリア

 その頃、海が見える小さな高台がお気に入りだった。俺は大学が終わるとバイクを走らせてはそこに向かう。人は誰もいない。だから居心地が良かった。そんな毎日があれば良かった。一人で充分だった。

 しかしある日、俺の日常に一人の少女が現れる。それがアヤだった。

 いつも通り、一人で色のない夜の海を眺めていた。俺は色に興味がなかった。色が見えないわけではなかったけれど、どれも同じ色に見えて仕方なかったのだ。全てがありきたりで、大した価値もない。色をそこに乗せる必要なんてなかった。だから俺は夜が好きだった。わざわざ色を黒く塗りつぶすより、元々黒い方が楽だった。黒は疲れない色だった。何にも塗り替えられない、一番強い色。俺はそれで良かった。

 だけどアヤは俺の前に現れた。アヤは小さな光だった。ほとんど消えてしまいそうな、寂しくて弱々しい光。

 だけど彼女は希望だったのかもしれない。思ったよりきっと強い光だった。


 俺はその日もまた、小さな丘で海を眺めていた。一人で、誰にも邪魔されたくない時間。

「モデルの久世さん、ですよね?」

 小さな高い声が、俺の世界に飛び込んできた。自分の世界に籠ることで、俺は自分を保ってきた。何かを愛したいとも、何かを守りたいとも思っていない。強いていうなら、その対象になるのは自分だけだ。だから、外から何かが割り込んできたとき、俺はまずそれを追い出すための思考に耽る。このときの俺の答えは、肯定し適当なファンサービスを行うことだ。

「……はあ」

「ほんとに、久世さん?」

「そうです」

 少女は嬉しそうで、それでいて照れたような表情をしていた。

「あのっ、久世さん、この辺に住んでるんですか?」

「……はあ?」

 予想外の言葉に、俺は保っていたキャラを投げ捨ててしまった。少女はなんてことないように、ただ首を傾げていた。

「前にもあのバイク、見かけたから。久世さんのものですよね」

「……あんたになんでそんなこと言わなきゃいけないの」

 追い出せない。一人の時間が、壊れてしまう。俺は直感的に、そう思った。

「なんでって、特に理由はないんですけど、うーん、強いて言うなら好奇心ですかね」

「俺がそれに答えてやる理由もないし意味もないよね」

「まあそうですね」

「てかさっさと帰りなよ、あんたこんな時間に何してんの」

 スマホの画面を見ると、すでに十時半である。制服を着ているコイツが、こんな時間に外にいていいはずがない。

「……家出、ですかね」

 俺はひどく後悔した。俺の世界に入り込もうとしていることは明らかだった。それを追い出すのは簡単だ。嘘だと言って追い払うこともできるし、どうしても帰らないようならこいつを警察にでも連れていけばいい。

「くだらない。帰りな」

 俺はそう言い放つと、立ち上がり高台を後にした。


 それからしばらく、俺はモデル業が忙しくなり、都内のホテルに寝泊まりすることが多くなった。高台に近づくことはめっきり減って、正直、あの少女のことなど忘れていた。だけど、それでも彼女はそこにいたのだ。

「こんばんは」

「もう十一時だけど。あんたここにいていいわけ?」

「……だって、ここが静かで居心地良くて」

 自分が学生だなんてことは、きっとどうでもいいのだろう。それほど彼女は、逃げ出したかったのだ。

「久世さんは、どうしてモデルになったんですか?」

「スカウトされたから。別にそれだけ、大した理由なんかない」

 静かな場所を好んだくせに、こいつは矛盾している。

 俺は高校生のとき、バンドを組んでいた。芸能界に興味があったのも決して嘘ではない。芸能界は虚だ。色なんて、付いていやしない。そんな世界を望んだ俺も、特別なりたいほどではなくて、偶然声をかけられて、今そこに立っているだけなのだ。

「ほんとうに、しずか」

「え?」

「しずかな、場所に、しずかなひと、だなと思って」

 ぽつり、ぽつりと、小さな雨の降るように、彼女は声を落とす。

「きれいな……場所ですよね」

 小さな雨音みたいな声は、憂うように、壊れものを庇うように、こぼれ落ちる。

「何が言いたいわけ?」

 少女は答えない。海を静かに見下ろしている。

「ねえ」

「どこか、遠いところへ行きたい」

「……残念だけど、俺はあんたの願いを叶えられない」

「知ってます」

 それでも少女は夢を語る。

「それでも、どこか、知らないところへ、誰にも見つからないような場所へ、行きたいなあ」

 語った言葉が本物なのか、それはどうだっていい。こいつと俺はこの先もきっと赤の他人のままだ。関わってはいけないと、俺の本能が言っていた。だから、きっと、俺はコイツの名前も知らないままに、いつかは忘れてしまうのだろう。

「……そう」

 だから俺は、そんな風に素っ気なく呟くことしかできない。

「遠くに行ったって、何からも逃げられないよ」

 少女は答えなかった。静かに、海を見ていた。視線の先に写る海が、どんな景色なのかは分からない。俺は色を知らないそれが、もしかしたら他人には美しく写るのかもしれない。少女の言葉はそれきり続けられなかった。俺が帰るときも、ただただ静かだった。


 少女がどうして俺に頼ったのかは今も分からない。俺はそのとき無視をすることもできなかったし救ってやることだってできなかった。

「久世くん主演映画決まったんだって? オメデトー」

「ああ、はいはいありがとねぇ」

 スタジオでたまたますれ違ったそいつは、俺と同じ高校に通っていて、何なら一緒にバンドを組んだりもしていた。当時一緒にバンドを組んでいたメンバーは、全員が別の道を歩んでいるが、九条だけが音楽を手放さなかった。九条に誘われて始めた音楽活動も、もう過去の話だ。

 そこから一緒にご飯を食べようという流れになるのは、ごく自然なことだった。

「九条はまだ女たぶらかしてるわけ?」

 今は顔を隠して音楽活動をしている九条だけど、モデルの俺が腹立つくらいには彼の顔立ちには華がある。その顔で得をしたことも、トラウマを抱えるくらい嫌な思いをしたこともある。それは知っている。

「嫌でもそうなっちゃうみたいだね」

「……頑張ってんね」

 九条のバンドは軌道に乗り始め、主題歌などに起用されるようになった。顔を隠していてもどこからか情報は洩れるわけで、今も囲まれることは少なくないらしい。

「久世くんは出ずっぱりだよね。やっぱりすごいな。俺も俳優になったほうがよかったかな」

 俺の本業は俳優じゃなくてモデルなんだけど、と心の中で文句を言いながら九条の言葉を聞き流す。くだらないことを話しながら過ごす時間が、俺は案外嫌いではない。

「何言ってんの。あんたは音楽がやりたいんでしょ」

「まあそうなんだけどさあ?」

 九条は昔からそうだ。口で適当なことばかり話して、実際思っていることなど話したりはしない。だからこそ俺はコイツの隣にいるのが楽だったし、好んで隣にいるようになった。自分のことを語る必要などないのだ。

 ふと、あの少女を思い出した。彼女は深く自分のことを語らなかった。ただ家出とだけ話して、それ以外は一方的に俺の領域に足を突っ込もうとしてくる。そうして俺をからかっているのか、あるいは話せない事情があるのだろうか。……おそらく後者だろうけど。

「あのさあ、もし家出した女子高生に出会ったら、あんたならどうする?」

「ん~? なになに、珍しいこと言うね? まあ、警察に連絡だよね、俺は関われないかな」

「……あんたに聞いた俺が馬鹿だった」

 九条は少し驚いたように、何度か瞬きをした。自分の深い事情を決して話さない関係性で何年間も過ごしてきたから、意外だったのだろう。俺はそれを分かっていたはずなのに、変なことを聞いてしまったなと少し後悔した。

「そういう子に、会ったの?」

 だけど、急に真面目な顔になるもんだから、少しだけ頼りたくなってしまう。

「まあ。家出未遂、って程度だけど」

「放っておけない事情がありそうなの?」

 そう問われて、俺は何も答えられなかった。俺はあの少女を何も知らないが、ただなんとなく、気になっているだけなのだ。事情なんてものはてんで知らないし、名前すら知らないのだ。

「……うーん、そうだなあ、話でも聞いてあげたら? 久世くんが気にするほどだから、干渉してきたんでしょ」

「よく分かったね」

「あはは、だって久世くん分かりやすいじゃん?」

 初めて言われたそれは、長年の付き合いの九条だから言える言葉なのだろう。九条はコーヒーをすすると、昔と変わらない柔らかいような嘘くさいような笑顔を浮かべた。俺の笑顔なんて、きっとこれ以上に嘘くさい。それなのに俺のことを分かりやすいと言うのだから、本当に九条はよく分からない男だ。

 それでも俺が最も信頼しているのは紛れもなく彼で、反対に最も信用できないと思っているのも、彼なのだ。

 どっちにしようか考えたところで、答えなんて見つかりやしない。俺は思考を放棄して、とりあえずあの高台にでも向かおうと一人決意した。

 その晩、久しぶりの高台は相も変わらず静寂の中にぽつりと立ち尽くすようで、この日は人影はなかった。海は風が強いせいで大きく揺れていて、どこかの西洋映画にでも出てくる怪物のようだ。真っ暗で、風の音と、波の音が聞こえるだけの、静かな空間。そういえば一人でここにいるのは久しぶりかもしれない。

 そのとき、かすかなノイズがその空間に飛び込んできた。急ぐ足音と荒い呼吸。誰かが走っているのだろう。しかも、この方角へ。視界に写りこんだのは、高校の制服と見覚えのある顔。だけど、その様子はいつもとどこか違う。焦燥、だろうか。

 何か言おうと思って口を開くも、それだけで言葉は出ない。そのときの彼女は、確かに何かから逃げているように見えたのだ。後ろから追いかけてくるものは何もないはずなのに、何かに追われて、逃げているようだったのだ。ほとんど反射みたいだった。俺はヘルメットを彼女に投げて寄越した。これはきっと俺の気まぐれだったのだ。好奇心だったのだ。そう自分に言い聞かせなければ、俺はきっと彼女に心を許してしまう。救いたいと思ってしまう。俺は自分のヘルメットを被って、バイクにまたがる。少女は理解できていない様子だったが、俺の視線に気がついて慌ててバイクに飛び乗った。

「……振り下ろされないでよ」

 何をしているのだろう。俺はどうしたかったのだろう。彼女に簡単に手を差し伸べていいほど、俺は彼女を知らないし、彼女を救う力だってない。

 静かな道の向こうで、ヘッドライトのような光が見えた。ミラーを見遣ると、少女は顔を隠すように俺の背中に顔をうずめていた。

「あれから逃げてるわけ?」

 返事はない。無言を肯定と取った俺は、車では入れない狭い路地に右折した。

「ねえ、一緒に逃げてやろうか」

 それは、どこまでも哀しい救いの言葉。きっとすぐに終わりは来てしまうだろう。だけど怯える少女を家に戻すほど、俺は大人じゃない。そんな現実、見たくもない。ああ、このままじゃ主演映画も投げ出したことになるのかな。まあでもいいか、元々俳優なんてやりたくなかったし。

「共犯者になってやるよ」

 返事はない。ただ、俺を握る手に、さっきよりも力がこもったみたいだった。

「あんたの名前は?」

 か細い返事はほとんど聞き取れず、俺は聞き取れたほんの一部で呼ぶことにする。

「アヤ」

 アヤは鏡の中でそっと顔を上げた。今にも泣きそうな彼女に、手を差し伸べてしまったことを今になって後悔した。前を見ると、光はどこにもないようだった。真っ暗な道が続くだけのそれは、まるで未来を指し示すようで恐ろしくてたまらなかった。こんな逃避行じみたこと、何の救いになるだろう。見つかったとき、俺は社会的に生きていけなくなるし、アヤはきっと今以上に苦しむ。ばかみたいだ、だけどもう後には引けない。俺はバイクを加速させ、泊まる場所を探してバイクを走らせた。

 未成年二人で泊まれる場所などないに等しく、俺は仕方なく近くのラブホテルにバイクを停めた。自宅も少しは考えたが、実家住まいでは厳しい話だった。

「これ着な。制服隠れるでしょ」

 ロングコートを脱いで渡すと、アヤは大人しく受け取りそれを着た。部屋はどうでもいいかと思って適当に選び、周りを気にしながら部屋に入った。こんなところでスクープが出てしまったら、たまったもんじゃない。染めたばかりの茶髪がまだ未公開なのが救いだ。

「それで? ここまで来たんだから話してよ」

 暖房を入れながら、妙に派手な色の部屋に顔をしかめ、アヤを見遣る。アヤは丁寧に俺にコートを返し、ベットの端に腰掛けた。隣に座るのはなんだか気が引けて、向かいに椅子を引いてきてそこに座る。最初に会ったとき、あんなに明るく話していたのに随分と態度が違う。

「……父が、男手ひとつで私を育ててくれたんです。優しくて、大好きで、だけど最近、父の営む小さな工場が……苦しくて。それで、昔からお世話になってる会社の上役の息子が、私を気に入ったとかで……結婚、みたいな、話になって。だけど私は、その人のことは苦手で、それで、でも、父を裏切りたくなくて、逃げることしか、できなくて」

 ぽつり、ぽつりと吐露されていく彼女の過去は、まるでどこかの安い映画を切り取ったみたいで、なんだか現実味がない。それでもアヤは静かに言葉を紡いでいく。もう既に共犯者になってしまった俺は、彼女を信用するほかないので、それに納得して立ち上がった。

「大人は勝手だよねえ。昔から、ほんっとに」

 そしてその被害者は大抵子供だとか、彼らよりも弱い立場にいる人だ。

「明日からのことは朝考えるよ。今日は早く休みな」

「……すみません、巻き込んでしまって」

「別に」

 俺はアヤとは目を合わせない。目を合わせてしまえば、俺はきっと同情してしまう。そんなことですべてを投げ出せるほど俺は現実を見ていないわけではない。矛盾した思いを抱えたまま始まった、あまりにもくだらない逃避行は、やっぱり現実味がなくて俺は現実に置いてけぼりを食らったみたいだった。俺がしたことなのに、俺はそこにいないみたいだった。チープな映画の脚本を読んで、そして俺が演じるみたいな、感覚。それはあまりにむなしくて、俺はアヤを浴室に追いやると、ソファに寝転がった。無駄に尖らせていた神経が、やっと休められる。安心からか、俺はすぐに眠たくなって目を閉じた。明日のことは何も分からないのに、やたら落ち着いている。シャワーの音が聞こえてきた。単調なその音を聞きながら、俺は眠りについた。


 目が覚めたとき、まず自分がどこにいるのかを考えた。見覚えのない天井と、妙に静かな室内。そういえば昨日はアヤを連れて逃げたんだと思い出して体を起こすと、変な体勢で寝たせいか、体が悲鳴をあげた。ベッドを見ると、アヤはまだ静かに寝息を立てている。俺は携帯でまだ朝早くであることを確認し、充電器に挿す。軽くシャワーを浴びると走り書きで「コンビニ行ってくる」と残し、部屋を出る。近くに見つけたコンビニは寂れていて品数が少ない。お茶を取ろうとしゃがみ、冷たいそれを手に取ったとき、やけに頭が痛かった。なんでこんなところにいるんだっけ。なんで俺は今、ステージにいないんだっけ。ああ、頭が痛い、だけどもう何もかも終わってしまった。きっと元には戻れない。

 部屋に戻ると、やけに静まり返った中で、アヤはベッドに座って、ただ、ぼんやりとどこかを眺めていた。

「なに、」

 泣いてんの。言いかけて、自分のせいだと気がつく。ああ、メモ用紙なんか置くんじゃなくて、起きるのを待てばよかった。きっと不安だったのだろう。

「戻ってこないかと思いました」

 涙を流しながら、アヤは落ち着いた声で言った。慰める言葉は出てこない。このとき、俺はそれを否定できなかったのだ。だから、ただ黙っていた。代わりにコンビニの袋を机に置く。

「好きなの選びな、大したものじゃないけど、ないよりはいいでしょ」

 アヤはおずおずと袋に手を伸ばす。涙を拭った右手でそのまま適当におにぎりを手に取った。俺は余った二つのおにぎりを袋から取り出し、お茶を差し出す。アヤはこくりと首を小さく動かしそれを受け取った。

「久世さん、お仕事、って」

「ああ、しばらくないよ。オフ期間」

 嘘だ。さっきコンビニから出てすぐにマネージャーに連絡した。インフルエンザだと口にしたとき、昨日会ったばかりのマネージャーは不思議そうだったが詳しくは聞いては来なかった。

「それなら、よかった」

「……うん」

 何度目かの沈黙。テレビをつけようにもここはラブホテルだし、ろくなもの流れていないだろう。もともと出会ったときだって、大した会話はしていなかったから関係ないなと思い直して、俺は冷えたおにぎりを一口かじった。咀嚼したところで味も感じないそれを飲み込む。アヤはまだ笑わなかった。出会ったあの日以来、俺はアヤが笑うのを見ていない。

「ねえ」

 アヤはちらりとこちらを一瞥し、またすぐ手元へ視線を戻した。

「行きたいところ、あるわけ?」

 アヤは答えない。代わりに俺が言葉を続ける。

「遠くに行きたいって言ったでしょ」

 どうせ具体的な場所はないんだろうなと思いながらアヤを見ると、案の定特に思いつかないようで、ただ動きを止めて考え込んだだけで何かを答えることはなかった。

「それとも何日かここで様子見る?」

「……海に、行きたい」

「そう。じゃあそうしよ」

 海なんて行ったらこいつ死ぬのかな。いややっと逃げ出したのにいきなりそんなことはしないな。だけど見つかったら? その思考に行き着くと同時に、俺は口を開く。

「ねえ、見つかったらさ、俺を殺して一緒に死んでくれる?」

 ふと思いついてしまったそれは、俺が現実から逃げるための言葉なのだ。見つかってしまえば、俺の居場所はその瞬間に全ての場所から消えてしまう。だったら死ぬ以外の道に何があるだろう。

「海にでも入ってさ」

 本当は分かっている。アヤは俺を殺せない。だけど、俺が自分で死ぬことはもっとできない。自分にそんな度胸がないことは、自分が一番よく知っている。

「久世さん、携帯の電源って落としたままの方がいいですか」

「……切っときな。GPSついてたら居場所がわかる」

「そうですね」

 俺はまだアヤがつかめなかった。昨晩から喋らない彼女がやっと言葉を口にしたと思えば、それは決して俺の問いに対する答えではないし、まるで独り言みたいな話し方をするのだ。もしかしたら彼女は俺に助けを求めながら、俺が彼女を助けることなど望んでいないのかもしれない。俺に見放されて、どうしようもなくなって、家に戻るしかなくなるのが、本当の彼女の望んだ未来かもしれない。だけど中途半端に手を差し伸べた最低な男のせいでそれも叶わず、立ち尽くしているのかもしれない。

 静かなアヤは自分のことを語らない。まるで自分の言葉を持たないみたいだ。

 一向に俺に理解をさせてくれない少女は、どこか遠くを見ているみたいだった。


 まずアヤの服を買い、着替えさせると、俺はバイクを高台の麓まで走らせた。こんなに近くで海を見るのは久しぶりだった。

「……しずか」

 アヤはそっと目をつぶり、大きく息を吸いこんだ。横顔はうつくしかった。未来なんて真っ暗なのに、それでも彼女はうつくしかった。透き通った淡い青をまとう海に朝日が反射して輝き、それはまるで鏡のようだ。

「ねえ、久世さんは、夢とかないんですか?」

 静かな声のまま、そう呟いたアヤは相変わらず独り言みたいな話し方だ。視線は俺に向けられないまま、ただ言葉を置いただけみたいな、こぼれ落ちるだけみたいな、そんな話し方だ。

「……どうかな」

「うそばっかり」

 アヤは海をじっと見つめている。俺の何を知ってるんだ。何を根拠に、それが嘘だって決めつけるんだ。言おうとしていた言葉は、結局声にはならない。九条が俺を分かりやすいと話すように、彼女も同じことを思っているのだろうか。

 アヤは突然、画面が暗いままの携帯を鞄から取り出すと、大きく振りかぶり、海にそれを投げ入れた。遠くで小さく跳ねた水音は、虚しく聞こえた。

「……は、そこまですることないでしょ」

「どうせ戻る気もないから。それに、せっかく友だちのところに行くって嘘をついたのに、こんなもので台無しにしたくないです」

「……そう」

 突拍子のないことをしてしまうアヤなんて、俺には到底理解ができない。戻る気がないなんて言ったところで、見つかってしまえば全て終わってしまうのに。俺が彼女を見捨ててしまえば、何もかも終わってしまうのに。俺が一緒じゃなくても、アヤは一人で逃げたのかもしれない。それなのに、彼女は俺に人生を託した。何をもって俺を信頼しているかなどてんで理解できないが、俺はそれ以上は何も言えず、ただ彼女の隣に座って海を眺めていた。


 それから俺とアヤは、何度か宿泊場所を変えながら逃避行を続けていた。いつの間にか所持金もほとんどなくなってしまった。

 何日も電源を落としたままにしていた携帯をつけると、不在着信が何件かたまっていて、見るとほとんどが両親と事務所からで、中に一つだけ九条の名前が混ざっていた。どうしたのだろうと思いながら、そういえばインフルエンザだと嘘をついてからもう大分経つことに気がつく。さすがにこの先、その嘘では貫き通せないだろうし、とうに嘘だってこともバレていたのかもしれない。

 九条の番号に触れると、電話はすぐに繋がった。

「ちょっと久世くん、何してんの!」

 早々に怒鳴られた俺はわけも分からず、黙るしかなかった。九条の声が聞こえたのか、アヤと視線がぶつかった。

「はあ……その様子じゃ、何が起きてるか分からない感じ? 久世くん、行方不明ってことになってるよ」

「……なんで」

 俺が呟くと、電話の向こうで九条が大きく息を吐いた。

「とりあえず、その電話はいつGPSで居場所調べてるか分からないからすぐに電源落として逃げた方がいいよ。警察が関わってるわけじゃないから常にではないみたいだけど。でもその前に少し話したいから俺の言うところに来て。どうせ逃げるお金もないんでしょ」

「……あんたはすごいねえ」

 九条が言った場所と時間を走り書きでメモしながら、妙に九条の声が懐かしかった。あれから一週間は経っただろうか。嘘だと気づかれたときのためにカードは最初の三日で使うのを止めた。現金も早めに引き下ろして正解だったようだ。自分が案外冷静でいることに驚くが、今はそれどころではない。

 電話を切ると、俺はすぐに電源を落とす。その直前、事務所からの電話の通知で画面が光ったみたいだった。

「アヤ」

 振り返った先、アヤは最初に出会ったときと同じ恰好――逃げるために、隠れるために避けてきたはずの制服を着ていた。

「私ね、嬉しかったですよ」

 アヤはベッドに腰掛けたまま動かない。

「久世さんが私のためにここまでしてくれたから、それだけで十分です」

「……逃げるよ」

「もう、いいんです」

「ねえ」

 アヤは応えない。俺は彼女の腕を引こうと掴んだが、それだけで力は入らなかった。代わりにアヤに引かれ、彼女を押し倒す形でベッドに引き込まれた。

「泣かないで」

「泣いてない」

「キスしてください」

「嫌だ」

 だって、それでは俺は彼女を好きだと認めてしまう。

 ああ、いつから恋に変わったのだろう。たった一週間と少し。出会ってから二ヶ月も経ってないだろう。

「久世さん知ってますか?」

「なに」

「ここ、ラブホですよ」

「……だから、なに」

 アヤが笑う。なんで笑っているのか分からない。最初から今まで、俺はアヤを理解させてもらえないままだ。

「久世さん」

 アヤは泣いていた。笑顔を作ったまま、ぼろぼろと涙をこぼしていた。

「あの人に抱かれたくない」

 ほとんど存在を忘れていた、そもそもの逃げる原因。急に現実に引き戻された気分だった。警察は俺たちを捜していないにしても、俺は事務所に捜されているようだし、アヤが友人の家にいるのが嘘だと気づかれるのも時間の問題に思える。もう、終わりは近いのだ。

「おねがい」

 俺は震えながら涙を流す彼女に、そっと口付けた。愛おしくてしかたないのだ、本当は。それなのにその一言を言えないのは、俺がもうこの逃避行に未来を見ていないからだ。

 見下ろしたアヤは、まだ泣いている。こんな色だっただろうか。彼女は、こんなにも色を持たなかっただろうか。目をつぶれば、昔の景色は鮮やかに彩られているのに、どうしたって今そこにある景色はくすんで見える。

 アヤの瞳の色は、どんな色だったのだろう。彼女の制服のリボンですら、色が映らない。ああ、俺はきっと帰りたいのだと思った。見えないふりをしたはずのあの色は、いつの間にか本当に俺の中からなくなってしまったのだ。愛さないふりをして、俺はきっと愛していたのだ。芸能界を、俺が立っていた場所を、全部。

 いっそ死のうと思えたなら、こんな苦しくなかっただろうか。自分が存外死にたくないことに気がついてしまったから、苦しいのだろうか。

 俺は何度もアヤに口付けた。二人で泣きながら、何度も何度も、唇を重ねた。


「久世くん、久しぶりだね」

 待ち合わせ場所は、地元の海だった。俺とアヤは逃げるときに地元から離れていったが、いつの間にか少しずつ引き返していて、俺はどれだけ元の生活を欲しがっていたのだろうと思った。

「……久しぶり」

 九条はいつもみたいにへらへら笑っていたが、俺は笑う気になれず小さく応えた。

「元気そうで良かった」

「元気そう? まさか」

「あはは、ごめん。そこまで落ち込んでると思わなくて。もうやめちゃうの?」

 俺は頷かなかったが、きっと今日で最後なのだと予感していた。九条はいつもと変わらない様子で、少しだけ安心を覚える。何を考えているのか分からないのはアヤと同じなのに、何がこんなに違うのだろう。

「久世くんの映画の主題歌、俺が歌うからさ、そろそろ戻っておいでよ」

 このときの九条は、少しだけ切なそうだった。こんな話し方をしているのを聞いたのはいつぶりだろう。高校を卒業したときだっただろうか。感情を表に出さない九条にこんな話し方をさせるなんて、自分がしたことはよほど不安にさせたのだろう。

「……降板になってないんだ」

「なってないよ。監督は久世くんを出したがっているし、事務所はまだ正式に行方不明って出してないから」

「そっか」

「うん。それじゃあ、俺が言いたかったことはそれだけ。どうしても直接報告したくてさ」

 わざわざありがとう、とは言えなかった。

 そのまま九条は帰ってしまった。たった数分だけだったのに、九条と会ったことで、俺は余計に芸能界がいかに大事なものだったのか思い出してしまった。

「……アヤ、行きたいところ、ある?」

「初めて会ったところ、行きたいです」

「わかった」

 もう日は水平線の向こうに落ちてしまった。今晩は外で朝を待つのだろうか、なんて思いながら俺とアヤはまず夕食をとるため近くの定食屋に入った。テレビではちょうど、九条から聞いたばかりの話をしていた。なんで俺は今そこにいないんだっけ、と考えて、ああやっぱりもうおしまいなんだと自覚した。隣に座る愛しい少女は、俺の恋人にはなりたがらなかった。終わりを予感していたのは、俺だけではない。

 店を出ると、日はすっかり暮れていた。俺はゆっくり歩きたい気分になって、バイクを押しながら高台へ向かう。アヤは俺の少し後ろの方を歩いていた。

 バックミラーに写った自分はひどく情けない顔をしていた。終わらせたくない、だけど続けたくもない。

 空は少しずつ星が光り始めている。

「星がきれいだよ」

 ああ、違うな。こういうときはこれじゃないや。

「月もきれいだねえ……」

 雲に半ば隠された月は、お世辞にもきれいとは言えない。

「ほら、もうすぐあの高台だよ」

 それは終わりを示す言葉。逃げようなんて言うんじゃなかった。救いの手を差し伸べるんじゃなかった。僅かでも希望を持つんじゃなかった。アヤに、恋なんてしなきゃよかった。

 ピタリ、アヤが足を止めた。

「なぁに、急に」

 鏡の中で目が合う。アヤは泣きもせず、笑いもせず、ただただ無表情だった。

「泣かないでください」

 バックミラーに映った自分の顔を思い出す。情けないなあ、俺が言い出したのに。気づいてほしくなかった。どうせなら、最後までかっこつけさせてよ。

 やっと辿り着いた、懐かしい場所。バイクを停めて、俺はアヤを振り返った。

「ねえ、愛してるよ」

 それは幸せな言葉のはずなのに、悲しくてしかたがなかった。きらきらときらめく星たちは美しく、いつの間に雲から姿を現した大きな満月はこの高台を照らすスポットライトだ。白いスポットライトは舞台のクライマックスにふさわしい。小波の音は拍手喝采を受けているようで、スタンディングオベーションを連想させる。

 だけど、これはきっとバッドエンドだ。

 どうしようもなく愛おしいこの数日間は、やはり報われるはずがなかった。それでもたまらなく愛おしくて、それは優しくて温かくて、でも何よりも冷たかった。矛盾ばかりで作り上げられた彼女との日々はもう壊れかけている。もしかしたら壊してしまったのは俺だったんだろうか。

「海外にでも逃げて二人で暮らそうか」

「……久世さん」

「うん?」

「もう、辞めましょう。終わりにしましょう」

 だから結局、それは何の救いにもならなかったのだ。

「……俺のことは、殺せない?」

「ええ」

「どうして?」

「だって、久世さんは生きたがってるでしょう」

「どうかな」

 分からないのだ、自分がこの逃避行の末に何を望んでいたのかなど。本当は俺も逃げ出したかったのかもしれない、だけど途中で俺の居場所は元いた場所にあることに気がついてしまった。あるいは本当にアヤを救いたかったのかもしれない、だけどそんなことに全てをかけるのが恐ろしくなった。

 どちらにしろ、俺は情けなくてしかたがなかった。

 愛して、だけどそれも自分以上には愛せなくて、結果俺は自分を選んだ。

「よわくて、ごめん、まもれなくて、ごめん」

 そんなのはとうに分かっていたではないか。分かっていたのに、胸を締め付ける痛みはどうしてだろう。

 アヤは笑った。ああ、いつぶりだろう、こんなうつくしい笑顔は。

「俺は思ってたよりも生きたいみたい」

「そうですね」

「ねえ、すきだよ、あいしてるよ」

 何度伝えたってしかたがないのに、俺はそれを言わずにはいられない。アヤは静かに、そっと微笑んだだけだった。

「俺が大人になったら、迎えに来るから」

 くだらない口約束でも、今はよかった。アヤはもう帰るしかない。だから、彼女に生きる希望を与えたかった。なんて、そんなのは綺麗事だろうか。本当は俺が罪の意識を持つのが怖くて、そんなことを言ったのだろうか。

 アヤは笑った。うつくしかった。月光に照らされたアヤは、本当にきれいだった。

「アヤ。……絢乃。ごめん、それでもやっぱり愛してるんだ」

 初めて呼んだ名前は、やはり愛おしい。

「わたしも、あいしてましたよ。……叶さん」

 せめて俺が大人なら、本当にさらってしまえるのに。

「バイバイ」

 その言葉は、思っていたよりも震えてしまった。



 目が覚めると、遠くで金髪が揺れているのが視界に入ってきた。色が戻った世界は、アヤがいない分だけ穴が空いたようでアンバランスに思えた。それから何かを焼くような音が聞こえて、彼が料理しているのだと分かり、名前を呼ぼうと口を開いた、そのとき、何を思ったのか、ちょうど九条が振り返った。

「おはよう」

 昨晩、家に帰る気になれなかった俺を何でもないように受け入れてくれたのが九条だった。

「……おはよ」

「朝ごはんもうすぐできるから待ってね〜」

 気の抜けた声が懐かしくて、温かくて、俺は妙な安心感に泣きそうになった。

「ねえ、九条は好きな人とかいないの」

「本気で言ってるの?」

 九条はおかしそうに笑った。あんたはそういう人だったね、聞いた俺が馬鹿だった。九条は俺が知り合ったときにはすでに女性から距離を置いていた。その容姿のせいで、過去にどんなことがあったのか、俺は詳しくは聞いていない。時期が来れば勝手に話すだろう、だから俺は自分からは聞かない。

 九条は息を吐いて、柔らかく笑った。

「おかえり、久世くん」

 高校のときから染み付いた、どこか素っ気ない呼び方。それぐらいの距離を、俺は誰とも保っていたはずだった。どうしてこんなにも深入りしてしまったのか。しかもよりによって、アヤなんかに。アヤみたいな、事情を抱えるひとに。

「……ただいま」

 今思えば、彼らといた時間が、俺の人生の一番楽しい時間だったのだろう。彼らといるのが一番落ち着くのだ、ホームみたいな雰囲気だったのだ。

 愛されていたのだ、と思う。愛さないふりをして、俺は確かにあの瞬間を愛していた。

「久世くん、明日から仕事出れるかって事務所から連絡来てたよ」

 ひどい話だ、そんなの無理に決まっている。しかしその世界を選んだのは紛れもない自分で、その世界を愛しているのも、その世界が簡単には自分を離してくれないことも、とっくに分かっていることだった。

「イライラする」

「うん」

 九条が静かにうなずく。これは高校のときから居心地が良かった。下手に干渉せず、静かに次の言葉を待つ。九条はそういう人だ。だから俺は彼といることを好んだ。

「助けてあげられないよ」

 九条が黙ってしまった。

「俺じゃ、助けてやれない」

 そんなのは、初めから分かっていた。分かっていたのに、手を差し伸べてしまった。

「久世くんには未来があるよ、残念ながら」

 その言葉は、果たしてどんな意味を持つのだろう。

「未来を生きないと、ね」

 未来に希望を持ったことなんてない俺には少し難しいけど。代わりに失望も絶望も見たことがない。だから今、こんなにも心が痛い。

「アヤは……」

 また俺を愛してくれるだろうか。俺を許してくれるだろうか。

 愛してる、なんて。たぶんこの先も言う機会のない言葉だ。

「久世くんは未来を生きるんだよ。自分の未来を。他人に縛られちゃだめだ 」

 アヤを失った今、未来なんてのは見えなくて、九条が放った言葉はなんだか現実味がなかった。

「そんな未来を」

 どうやって受け入れろと? どうやって生きろと?

「生きろよ」

 俺が問う前に、九条が言い放った。いつもへらへらしていたはずの九条の声は重苦しく、ひどく悲しかった。

「それとも君は彼女の未来や生きる希望を奪うの? それはあまりにも無責任だよ。久世くん、死んだように生きている場合じゃないんだ」

 ああ、そうか。俺は死のうなんてのは思ってない。だけど生きることを放棄しようとしたのだ。それはもしかしたら、死ぬことよりも怖いかもしれない。

 俺とアヤの数日は、どうしようもなく報われなく、だけどやはり愛しいのだ。

 果たしてそれが何の意味を持つのかは分からない。少しでも彼女の救いになるなら……いや、それは甘えか。俺はひどいことをした。あんなの、結局は俺の自己満足でしかなかったんだ。自分はやれることはやったのだと、言い聞かせたいだけ。

 気がついたら泣いていた。彼女のうつくしい涙を思い出す。

 あいしてました、と過去形で告げられたそれを思い出す。思い出して、自責して、早く大人になりたいと思った。

「九条」

「ん?」

「俺、明日から仕事するから」

「うん。……はい、朝ごはんできたよ」

 早く大人になりたいと思うこと自体、子供なのだろう。それでも今は、それを祈るしかない。

 それぐらい、俺はアヤにまだ囚われている。



 高台に足を向けたのは、何年ぶりだろうか。やけに久しい気もするが、アヤと逃げた日々は今も思い出せる。

 あのあと、ここから逃げるように上京した俺は、仕事が増えたからと上京した九条とルームシェアを始めた。九条は俺を心配してルームシェアを提案したらしかった。

 立ち尽くすようにそこに生えている木にそっと触れる。ここに触れると、何だか温かくて、アヤを思い出した。しかし、もう彼女の顔は思い出せない。今は大学生だろうか。

「久世さん」

 小さな光が、また俺の世界に飛び込んできた。その正体は、分かっている。

「ねえ、もう一回俺のこと愛してくれない? 今度はもう、手放さないから」

 後ろから抱き締められた。空ではあの日と同じ星が輝いていて、月は高台を照らしていた。

「つきがきれいだよ」

 黄金色のスポットライトこそ、舞台のクライマックスだったのだ。そして今度はハッピーエンドだ。色を取り戻したこの世界で、今度は色に溢れたまま愛したい。俺は幸福感を噛みしめるように、逃がさないように、そっと目をつぶった。愛しい温もりをそこに感じて、俺はまた少しだけ泣きそうになった。

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海の星に願いを捨てて サトミサラ @sarasa-mls

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