糸に糸を重ねたら、ほつれました

あのった

恋仲になったのは先月、8月の事

猛暑日、炎天下

陽の光が眩しい教室で僕達は付き合うこととなったのです。


「夕日くん」

誰がどう見ても美人、なんといっても博識

彼女の裏を知っているのが今では僕だけなんて

その時はきっと思いもしなかったでしょう


「好きです、付き合ってください」

お決まりのセリフで僕の前に立って深々と礼をしている彼女は、凛とした声で確かにそう言い放ったのです。

冴えない、成績も普通

そんな僕にこの彼女が釣り合うだろうか

最初にそんなことを考えて

「ああ、僕ってなんて最低なんだろう」

そう思ったのですが

返事はイエス

これで断る馬鹿な男なんているのか、と思いました。

「ありがとう」

儚い笑顔を浮かべて、陽の光と黒板、2つの机と椅子、それに揺れるカーテン、棚

全てが彼女を彩る「背景」でした。

「今日から、恋人だね」

影がそっと重なった時には、堕ちていたのでしょう


今日で一ヶ月経ちます。

僕は今まで恋仲になった女性はいない(いるはずがない)ので、世間の重たい女子という子達がする記念日なるものに憧れていたのです。

こんな冴えない僕も、妄想はするわけで

女の子よりも妄想して、恥ずかしくなって、ベッドに顔を埋めて

そんな中、いつも浮かぶのは彼女の儚い笑顔で。


「今日で一ヶ月ですね」

そう彼女の前で言う僕

「そうね・・・記念にデートでも行く?」

綺麗な笑顔を浮かべてこちらを向く彼女

僕には勿体ない。

その言葉がお似合いなぐらい、綺麗。

笑顔を向けられると、あの儚い笑顔を思い出す僕は

きっと彼女に溺れているのでしょう。

「水族館がいいです」

「私も、そう思ってたところ」

意見が一致したのに二人で吹き出して。

その時間がずっと

永遠に続けばいいのに

そんなことを思っていても、神様はバツを与えない

こういう時の神様はすっごく好きです。

邪魔者もいない

こんなに幸せな時間。


・・・フィクションです、勿論。

僕にそんな勇気はありません、彼女が好きだと言ってくれることが唯一の救いでした。

関係は良好だとも、不調だとも言い難い

中間

本当に友達感覚なのです。

周りからは羨ましがられますが

これが、彼女に「羨ましいと思って欲しかったから付き合ったんじゃ」なんて思われていたら

そんな考えが頭に浮かぶだけで目に涙が溜まって

その日は無性に彼女に会いたくなって。

わざわざ彼女のクラスまで行って「いますか」なんて声をかければ

たん、たん、たん、と心地よいリズムで歩いてきてくれる彼女に

僕はそっと

「今日で一ヶ月ですね」

なんて思わず。

「覚えててくれたの、嬉しい。」

はにかんでくれる彼女の真意なんて分からないけれど

妄想が現実になることほど嬉しいことはないんだな、と

一人胸を躍らせていました。

「どこか行きましょうよ」

移動教室の時、意外にも彼女からそう声をかけてくれて

僕のクラスを通らないといけない理科室に今回ばっかりは感謝をしながら

「水族館がいいです」

妄想で答えたものを言う。

「ええ、私は動物園がいいな」

ここは意見が外れてしまいましたが

ここまでうまくいけば、僕の幸せなど。

「じゃあ動物園に行きましょう」

「君はいいの?」

間を開けず急にいう彼女に少々驚きながらも、僕は彼女と行けるならどこでもいいです、なんて紳士を気取った答えを返した。

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糸に糸を重ねたら、ほつれました あのった @anotta_0227

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