新しい種族はじめました

『東の街ーカナールー』



『A&L』の中でも有数な大都市。多くの商人や冒険者に溢れていて、賑わいの絶えない街。

……みたいな設定だった気がする。確か、序盤辺りでも頑張れば来れる場所だ。武器とか道具とか情報とか、そういったものには困らなくなる。レベルが低くても、少し背伸びして目指したい街でもあった。


「とりあえず、宿でも捜すか?」


「……うん、そうする。人多い、疲れる」


確かティアは人混みが苦手だ。宿をとっておくのもいいだろう。……宿屋ってどっちだっけ。

昔の記憶を頼りに、賑やかな街並みを歩く。こうしてみると、すれ違う人や、店を開いている人、すべての人間が、普通の人間にしか見えない。ここは、本当にゲーム中……異世界なのだろうか。


「レン、あそこ」


「ん?……あーあれって、確か職業屋だったか?」


その店は、テントを張って、カウンターがあるだけの質素な作りだった。職業屋、自分にあった職業を教えてくれる店。性格とか、体格とか、そういったもので細かく診断してくる。

そして、確か自分が今何の職業かを教えてくれるんだったか?普通はプロフィールのところとかに表示されるんだけど、今は見れない。さっき感じた違和感の理由を知るためにも、ちょっと行ってみるか。


ティアの方を向き、頷く。すると、ティアもわかったという顔をした。

手を繋ぎ、街行く人々を避けながら目的の場所に進む。


「あのー、すみません。俺らの職業が何なのか教えてほしいんですけどー」


よくよく考えると、この聞き方っておかしいよな。なんでお前自分の職業が解んないの?ってなるよな。

だが、想像とは裏腹に、店の髭をはやしたじいさんは、「わかりました、ちょっと待ってください」と言った。こういうこと聞くやつは多いのだろうか。自分を見失った的な?まあ、そういうやつらと一緒にされるのはしゃくだが、訂正も面倒なのでおとなしく待つ。


「わかりましたよ、貴方の職業が」


終わったみたいだな。じいさんの目の前にある水晶みたいなものをあれこれしていたが、これでわかるのだろうか。


「じゃあ、教えてくれ。俺らの職業を」



「あなた方の職業は……『悪魔』です」



「……は?」


すんと、じいさんは言い放った。悪魔、そんな職業、『A&L』内には無かったはずだ。アップデートで追加されたのか?どんな職業なのだろうか。ティアが魔法を使えた時点で、魔法は使えるようだが。


じいさんが、悪魔、という単語を言った瞬間、周囲の人間の意識がこちらに向いた。

人々がこちらを向き、仕切りに何かを呟いている。


「……ねえティア。なんか俺ら注目されてない?」


「され、てる。……たぶん、この世界において、悪魔はよくない、もの」


よくないもの、悪魔。いったいどういう扱いなのだろうか。


ざわついている人々の中から、明らかに兵士と見られる男性二人が近寄ってきた。


「お前たち、何者だ。先ほど悪魔と聞こえたが。まさか悪魔族の者か!」


悪魔族?なんだそれ。このゲームに種族の概念なんてあったっけ。これもアップデートで追加されたのかな。


「おいおい、ちょっと待てよ。俺はただ職業を確かめてただけだぜ?悪魔?なんだそれ。そんなの身に覚えがねぇーんだよ」


「職業?職業に悪魔なんてものはない。嘘をつくんじゃない」


「ならこのじいさんに聞いてみろよ。なぁーじいさん、俺はあんたに俺らの『職業』を聞いたよな」


「いえ、わしはそなたらの『種族』を教えたのじゃ。職業は無職じゃよ」


え、なに無職って。そんなのあるの?この世界ではニートなの?

そう考えているうちに、兵士たちは更に俺らに近寄ってきた。


「怪しい者め、城まで同行してもらうぞ」


兵士の一人に剣を向けられ、俺も身構える。

ったく、めんどくさいことになったぞ。


「あーもうわかったわかった。抵抗しないし、めんどくせーから城まで行くよ。王のところにでも行けばいいのか?あ?」


まあ、どっちにしろ王様は気になっていた。ここの王は確か、女王だった気がする。両親失った後、一人でこの国をやりくりしてるって設定だったか?

兵士たちに剣を向けられながら、俺とティアは『カナール城』に向かうことにした。

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異世界エーエル コカトリス @hikkii

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