異世界エーエル

コカトリス

異世界からの招待状

突然だが、皆はどこにいるときが一番落ち着くだろうか。静かなところ、賑やかなところ、安心するところ。色々な条件があり、色々な場所があると思う。ちなみに、俺の一番落ち着く場所、それは……


「やっぱり、ひきこもりって最高じゃね?」


そう、『自宅』である。

この解放感。絶対的安心感。家より素晴らしい場所はないと確信している。

あ、一応職には就いてるから、ニートではない。それに、彼女もいるし。どっちかと言うと勝ち組だな。


「レン……突然なに?」


今、膝の上で、折角俺が家を出たくない気持ちを耐えながら頑張って買ってきたみたらし団子頬張っているのが、俺の彼女だ。低身長、貧乳、金髪。年齢のわりに幼く見られがちで、俺とデートとかすると、よく職務質問される。あ、俺は別にロリコンじゃないです。

てか、その団子俺のなんだけど。ちゃんと俺の分あるよね?


「いや、なんか、家って素晴らしいなって思って」


「ふーん……」


そう彼女は、興味の無さげな返事をして、目の前にあるパソコンをいじり始めた。


「ん?ティアちゃん何してるの?」


「『A&L』の、大型アップデートがきてたの……レン、これ覚えてる?」


『A&L』……〈アクション・ラブ〉というMMORPGだ。広大なマップ。細かな職業、ステータス。魔法や特殊能力、接近戦などがあり、多彩なアクション性や自由度の高いゲーム。配信当時は、学生やゲーマーなどの間ですごく人気のあったゲームだ。


「あーあれか。俺もティアちゃんとハマったし、面白かったよなー。確かほとんどできることやり終えたから、やめちゃったんだよな」


あれは確か1年前くらいだったか?まだアカウントとか残ってるだろうし、久しぶりにやってみるのもいいかもな。

そう思いながら、自分のパソコンを立ち上げ 、『A&L』のアップデートソフトをインストールする。そして、奥の方にしまってあったゲームソフトを起動させる。すると、アカウントの設定画面が開いた。アカウントを選択し、ゲームを始める。

ロード中に、ティアのパソコン画面を覗くと、こっちもアカウントを選択してロード中だったようだ。


「懐かしいな……ん?これ、なんだ?」


「……『招待状』?」


そう、本来ならゲームが始まるはずなのだが、なぜだか今、パソコンの画面には、招待状を開きますか?という文字が出ている。

……というか、開く、っていう選択肢しか表示されないんだけど。バツボタンとか、開かない、とかないんだけど、


「とりあえず、開くしかないみたいだし、見てみるか」


そう言いながら、矢印カーソルを開くのところに合わせて、ティアと同時にクリックする。


ーーーその瞬間、パソコンの画面から強い光が放たれた。視界が真っ白にそまり、意識がとうのいた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「……ここ、どこだよ」



そう、今俺は草原に立っている。見たことがあるような無いような草原。見渡す限りの、だだっ広い草原。のどかな風が吹き、草木がなびいている。


……さっきまで家にいたよね?なんで?どこここ?


「レン……なに、その格好」


「え、格好?」


自分の姿を見ると、黒い丈の長いパーカー。赤の七分丈シャツと黒いズボン。そして、黒いブーツ。……さっまで、上パーカーに、下ジャージの格好だったのに。

それに、このロン毛……。ポニーテールみたいに後ろでくくって、前髪も少し長めだ。そして、なぜか腰には木刀。


「レン……中二くさい。……でも、ちょっとかっこいい」


そういう俺の彼女、ティアは、見た目はさほど変わっていないが、紺色のマントのようなものを羽織って、フードを被っている。頭にはティアラみたいなのをつけているらしく、動くときにちらちら見える。靴は、俺と同じ黒のブーツだ。


「つーか、これって……」


『A&L』の装備だ。容姿も、昔使ってたアカウントの見た目そのままだった。

ということは、これってまさか……


「これって、異世界召喚ってやつ……?」


信じられない現実が、目の前で起こった。ゲームの世界に異世界召喚とか、ソード・アート・オフラインかよ。いや、あれは異世界ではないか。どちらかというとオーバーラードか。


「……そういえばレン、これやってたときに見てたアニメ……しるばぁそうる、の真似して、わざと弱い木刀使ってたよね」


あ、そうでした。だから木刀持ってたのか。


「いや、今それどうでもいいよね!?え、なにこの状況。俺ら異世界来ちゃったの!?」


えーどうしよ。戸締まりしたかな?てか、これ戻れるのかな?


「レン、これ……魔法使えたよね。使って、みる」


そういうと、ティアは近くにあった手頃な岩に向かって、片手を前に出して構えた。すると、案の定魔方陣のようなものが出てきて、そこから火の玉のようなものが飛び出した。それにより、岩が砕け散った。


「……あ、でた」


「へぇ、魔法なんて初めてみたわ。ティアちゃんは職業なんだっけ?」


「確か……賢者、だったはず?」


そう言いながら、ティアは首を傾げていた。どうかしたのだろうか?

賢者とは、攻撃魔法と回復魔法の両方を兼ね備えた魔法のスペシャリストだ。基本的に航法で戦うのが普通だ。

とりあえず、魔法が使えた時点で異世界召喚は確実か。

そういえば、アイテムとかどうなってんだろ?……あーなんか、感覚的というか、本能的というか、頭のなかにスロットがあって、そっからアイテムや装備品を出せるみたいだ。何気に腰元の袋にはお金も入ってるし。なんか、本当にRPGをやってるみたいだな。


「……レン。レンの職業って、なんだっけ?」


「ん?俺は確か……剣魔だったか?」


剣魔は、基本スタイルは武器で戦って、それ以外に補助魔法を自分にかけて戦える職業だ。ティアは攻撃魔法と回復魔法、俺が敵陣に突っ込むっていうのが俺らの手法だった。

けど、なんだろ、この違和感。なんか、自分の職業は剣魔じゃない気がするような……


「なあティア、俺の職業って剣魔だったっけ?」


「レンも、そう思う?」


どうやらティアも謎の違和感を感じていたようだ。

まあ、それは追々考えるとしよう。


「とにかく、一番近くの街に向かってみるかなぁ」


そうして、異世界での第一歩を踏み出した。

……やっぱりこの見た目、今となってはちょっと恥ずかしいなぁ。

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