17-1

 今日から新学期だ。生徒たちの集まる中、弥絵は背伸びをしてクラス分けの貼り紙を覗いていた。

 動く頭が邪魔でなかなか見えない。苦心しているところへ、日葉ひよ美玖みくが駆け寄ってきた。

 「わーい。弥絵っち、また同じクラスだね」

 「あ、ほんと?」

 嬉しい。このふたりとは、三年間一緒のクラスだ。

 「土岐ときくんもB組だよ」

 「ふうん」

 その男子生徒のことはどうでもよかったので、さらりと流したら激しく突っ込まれた。

 「リアクションうっす!」

 「え。濃くないといけないの?」

 「弥絵っち、にぶっ」

 「意味判んない……」

 日葉が身体をくねくねさせながら言った。

 「にーぶーいーよー。土岐くん、弥絵ちゃんのこと好きなんだよぉ」

 「……は? なにそれ。あのひと、あたしのこと馬鹿にしてるじゃん」

 弥絵はあまりにも都会の常識を知らず、最初の頃は的外れな言動ばかり繰り返して皆に笑われていた。そのせいで土岐はいまでも、なにかあるごとに弥絵を田舎者だとからかう。最後には正解を教えてくれたりフォローをしてくれたりもするので、悪いひとではないのかもしれない。

 「あいつコドモなんだよ。好きな子を虐めるタイプ」

 「でもだめだよね。弥絵っちには年上の彼氏がいるもん」

 「あー、またそれ……」

 弥絵は声をひそめた。

 「何度も言ってるけど、医師はそういうのじゃないってば」

 十六歳年上の保護者と同居していることは、幾人かの友人の知るところだった。問題になると厄介なので黙っていてくれ、と頼んである。しかし彼女らはその約束を守るつもりで、逆に秘密めかして煽ってくるのだ。彼女たちの恋愛に対する過剰反応は、見ていて驚くやら感心するやら呆れるやらだった。

 見ると弥絵たちのそばで、男子生徒が数名、輪になって話をしている。その中で頭ひとつ飛び抜けて背が高いのが土岐だ。

 「あ、噂をすれば。いるじゃん土岐くん」

 「こっち見た」

 「土岐くんこっち見た」

 見てないよ、と弥絵は思った。

 相変わらずこの子たちは騒がしい。けれど、一緒にいると妙に楽しい。話の輪の中に入っているのは面白いものだと、高校生活で知ることができた。

 通常より一年遅れで高校一年生に編入した弥絵は、皆よりひとつ年上だ。しかし彼女の外見が幼いため、逆に年下らしく見えなくもない。小柄な容貌とは裏腹に、言いたいことをはっきり言う性格が一目置かれているらしい。年上ということでなにかを遠慮されたことはないし、おそらく皆、彼女の年齢を忘れている。

 故郷と違う風景にもだいぶ慣れてきたように思う。

 弥絵は東京での高校生活を満喫していた。



 朝礼のあとで、三年生の新しい教室に入った。進路指導のプリントをもらい、少し憂鬱になった。

 就職と進学のどちらかに丸をつけ、希望の詳細を書き込んで提出するらしい。

 弥絵はシャープペンシルで「就職」に丸をつけた。

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