第三章

美少女化したオリキャラまで参戦してきてハーレムの主が疲労困憊 1

 皆知ってるかと思うけれど、俺には彼女がいる。くどいようだが俺には市川秋陽という恋人がいる。

 何度でも言いたいけれど今はここでやめておく。


 しかし、モテる男が羨ましいって言うのは全く以て別の問題なんだよ。

 沢山の魅力的な女の子が俺の愛を求めて競い合う――ハーレムというのは男の永遠の憧れなのさ!


 そう、憧れであるという事はだ。


 他人のハーレムを見せ付けられるのは、腹立たしい事この上ないんだよね。


 突然如何してこんな事を話しているのかと言うと、俺の目の前でまさに一人の男の愛を巡ってのハーレムバトルが繰り広げられているからだ。


 彼の名前は才波龍二さいばりゅうじ。三年生、俺達の一つ年上だ。


 背は高く、普段はそれを活かしてバスケ部のエースとして活躍している。

 時々、快がバスケ部の助っ人に入ったり、龍二がサッカー部の助っ人に入る事もあって、そうなれば試合はほぼ彼等の独壇場だ。


 更に、精悍な顔立ちの龍二が汗を拭う姿は確かに絵になる。試合を見に行った時は、女子の黄色い悲鳴が鳴りやまなくて耳が痛くなったくらいだ。

 彫りが深いワイルドな顔立ちをしているというのに……点が入った時や勝利の瞬間とか、笑うと少々幼く見えるっていうのも龍二の魅力なんだとか誰か言ってた。


 そんな龍二は、そりゃぁもうモテる。彼女がいるって言うのに何故か女子が諦めない。

 龍二は一人しかいないというのに手作り弁当幾つ貰うんだろうね。


 天気が良いから友達と外で昼食を食べる昼休み。隣のビニールシートでは龍二を中心にして女子がキャーキャー言いながら弁当を広げている。こんなの見させられるなんて、全く以て計算外だ。

 ああ朝自分でサッと作った鮭のおにぎり美味しいなー。


 ちなみに涼とかの彼女持ちは苦笑しながら見ているが、健吾達他の男子は嫉妬と憤怒が入り混じった凄まじい形相で睨んでいる。まぁどっちかというと俺も後者寄りなんだけどね。


「お、おい。お前達も一緒に食わねぇか? 流石に一人じゃ食い切れねぇ」


 こんな感じで親しみやすく後輩の面倒見も良い龍二は、俺達の学年でも男女を問わず慕う子は多い。まぁ女子にモテるという事が絡まなければ、だけど。


「そんなぁ! 私、龍二先輩の為に頑張ったのに!」


「もしかしてお口に合わなかったんですか⁉」


 口々にそんな事を言われたら龍二としても頑張るしかないよね。咄嗟に涙浮かべられるなんて凄い女優だと思うんだ。


「わ、悪い。そう言うんじゃねぇからさ」


 男子の嫉妬はもっと激しくなったけど。


 うん、こうやって見るとハーレムの主っていうのも楽じゃないよね。


「嬉しいわ、才波君」


「龍二先輩ありがとう!」


「さいばせんぱいふぁいとー」


 そんな女子の嬉しそうな声と誰かの投げやりな男子の声援が響く中、ドンという音がそれらを掻き消した。

 同時に場の空気が凍り付く。


「ならば勿論、これも食べてくれるんだよな? 龍二」


 さっきの音は、とある人が五段重ねくらいの重箱をシートの上に置いた時の物だった。


 彼女こそ、龍二と付き合っている……祝居弥いわいあまねである。

 笑おうとしてるみたいだったけど、失敗してた。こめかみには青い筋が浮かんでいるし、目が全然笑ってない。紫がかった鴉の濡羽色の長い髪はリアルに天を突きそうだ。


「あ、弥……」


 龍二が慌てる。考えてみれば普通に修羅場だよね。

 怒っている彼女はぶっちゃけ、凄く怖いんだけれど。


 女子はこの状況さえも好機と見る事が出来るらしい。


「きゃー、祝居会長怖ーい!」


 そう言って龍二に抱き着いた。絶対怒らせるの分かっててやってるよね。


 この彩之宮学院高等部の生徒会長相手に、良い度胸だと思う。しかも大きな財閥のお嬢様だし。


「……貴様等私と龍二が付き合っているのは、知っているよな?」


「あら、そうだったかしら?」


「そんな事実ないと思いまーす」


 女子って凄いよね、何処吹く風みたいくしれっとしてるもん。

 弥会長の青筋、どんどん大きくなってくし。


「と……兎に角、弥。弁当ありがとうな」


 いや会長さ、如何見てもそのお弁当一人や二人じゃ無理だよ? おせち料理だったら三箇日なんて余裕……五日くらい主婦を休ませてあげられるレベルだと思う。それを龍二一人に食べさせるつもりだったの?


 そして龍二は食べるつもりなの? 全部?


 うん、ある意味お似合いのバカップルだよね。

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