戦乱の街、騎士を待ち 8
「にゃぁ、良い判断だと思うにゃよ」
何時の間にか、ニャベルが俺の足元に来ていた。
「お前、何処に行ってたんだよ」
そう言えば俺がトリシアと話してる間、見当たらなかった。
「シルヴィアの様子を見に行ってたのにゃよ。やっぱり、残ってるみたいにゃ」
今この瞬間も、シルヴィアは誰かを助けてるのか……まぁ、それも確かに予想通りだったけど。
「じゃぁ、此処を突破されたらシルヴィア達も危ないね」
抵抗しない怪我人や女子供にまで危害を加えるとは思いたくないけど、命の保証はない。
捕らわれた後、どんな扱いをされるのかも分からないし。
如何にか、この攻撃を凌がないといけない。
城壁の向こうにどれくらいの数の兵士がいるのか。
俺は直接は見てないから、正確な兵力は分からなかった。けど、壁の向こうから飛んでくる魔術や弓矢は少なくはないと思う。
改めて、怖いと思う。
確かに俺は召喚魔法を使って、彼等に戦ってもらうという方法を使う。俺が武器を持って直接戦う訳じゃないけれど。
それでもやっぱり、戦いっていうのは怖い物だ。
自分の事を冷静に観察すれば――今だって手の震えは止まらないし、膝は笑っている。
けど、やるしかないんだ。
「俺、考えたのにゃ」
「え?」
俺が戦う決意を新たにしているというのに、このタイミングで何だろうか。
「もしかしたら、でしかにゃいけど。綴にしか出来ない、でも戦局を左右する重大な事がある、にゃ」
「何だよそれ! あるなら早く言えよ!」
そんな大事な事ならやらない訳にはいかない。
っていうかこれ、見せ場じゃないか⁉ もしかしなくても俺の活躍が始まる⁉
「じゃぁ、覚悟は良いにゃ?」
「うん! 勿論に決まってるだろ!」
でも覚悟って何なのかな。いや、もう腹は括ってるけど。
俺からしたら人生初の戦争に参加する以上に怖い事なんてないと思うし。
「分かったにゃ。そこを動かずに待ってるにゃ」
何をするつもりんだろうか。
疑問に思っていたら、ニャベルは建物の陰に姿を消した。
「え⁉ 何処行くんだよ!」
「良いからそこでじっとしてるにゃよ」
返事が返って来た事から、近くにはいるらしいけど。
「もう一回言うにゃけど、一歩でも動いたら駄目にゃよ」
おい何でお前の声が上から降って来るんだよ?
「よし、やるにゃ」
ちょっと嫌な予感がしてきたんだけどな。気の所為かな?
「やっぱりちょっと待って」
「猫は急に止まれにゃい」
一旦ストップを掛けようと思ったんだけど、現実は非情だった。
そこからは、本当に世界がスローモーションのように見えた。
ああ、本当にこういう事ってあるんだな。
俺の頭上に、小さな影が掛かる。
嫌な予感、的中だ。
上を見上げた俺から見えたのは、建物の屋根の上から飛び降りた、ニャベルの柔らかそうなお腹だった。
そして太陽を背にしながら……俺の真上に落ちてくる。
そのまま留まるなんてやっぱり無理というか。反射的に身を引いてしまった。
しかしそれもニャベルは計算の内だったのか、上手く身体を捻って落下地点を調節し……的確に俺の頭にぶつかってくる。
ニャベル自体は、やっぱり柔らかかったんだけど。その衝撃で、俺はゆっくりと地面に倒れ込んだ。
俺の顔から眼鏡が外れて、何処かに吹き飛ぶ。
背中が地面に着き、頭も軽く打ち付けた。
リアルに視界の中を星が飛ぶ。
「そっちの世界で、カイを呼んでくるのにゃよ」
そんなニャベルの声を耳が拾ったのだが。
当然の如く、俺は意識を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます