意外とあっさり帰れてしまった訳だが 1
遅れて衝撃がやってくる。頭が歪んでしまうんじゃないかと思った。
「痛いじゃないか! ニャベ……ル?」
しかし、そこに痛みの原因であるニャベルの姿はなかった。
そもそも此処は、俺がさっきまでいた赤砦都市グラシアでもない。いや、『災厄姫』の世界ですらなかった。
「俺の部屋だ……」
エアコンも電気もスマホもパソコンも置いてある、静野綴の部屋だった。
俺は……取り敢えず、アシュレイになった時と同じように眼鏡を確認する。
やっぱり掛けたままで寝てたけど、割れてない。良かった。
そっと手元にあったスマホの画面で、時間を確認する。
午前四時二六分。うわぁ何て微妙な時間なんだ。
って言うかさ、俺向こうの世界では一週間とちょっと過ごしてたけど、現実には四時間くらいしか経ってないんだね。不思議。
……。
「えっ。こんな簡単に戻れて良いの?」
いや痛かったけど。次もあんな手段で戻れって言われたら断固拒否する。絶対に嫌だよ。
普通に眠った時は戻れなかったのに、何で気絶すると戻るんだ。
「……夢、だったのかな」
冷静になって考えてみると、そう考えるのが普通なんだけど。
ベッドの上に散らばってしまった秋陽の原稿を纏め直しながら、俺は考える。
これを読みながら、枕の代わりにしてしまったから――だから、俺はアシュレイになったのだろうか。
でも、夢を見た時に目覚めると記憶があやふやで断片的にしか思い出せないけれど、今回は全部はっきりと覚えてる。あっちでの五感もリアルだったし。
如何しても、夢だとは思えなかった。
「カイを連れて来いって……如何しろって言うんだよ」
最後に聞いた、ニャベルの言葉を思い出す。如何すればもう一度『災厄姫』の世界に行けるんだろう。
自分一人だって分かんないのに、カイ……いや、快か。一緒に連れてく方法なんてもっと分かんないよ。
そして痛みも思い出した。如何やらこっちの俺の身体は、壁にぶつけただけだったみたいだけど。
でも痛いモノは痛かったんだよ。覚えてろアイツ。
あとは、秋陽の原稿も読み進めて……ネットの『災厄姫に幸福を』も、もう一度閲覧し直そう。何か見落としてたり、新しく思い付く事もあるだろう。
それこそ、向こうの世界に行く方法もさ。
あーあ……今日から、俺の孤軍奮闘の日々が始まるのか。考える事いっぱいあるし、如何したら良いんだよ全く。
まぁ、難しく考えるのは一旦やめよう。
だってまだ早朝だし。目覚ましが鳴るまで、あと二時間くらい眠れる。
俺は原稿をクリアファイルに収め、鞄の中へとしまい直した。
そして、仰向けになって枕に頭を乗せ、正しい姿勢で布団を掛けて……俺は二度寝をする。
さっきまで眠っていたと言うのに、身体は睡眠を欲していたようだ。眠気は直ぐにやってきた。
そうだよね、脳……いや、心はアシュレイとして魔術だの戦争だのを体験してた訳だから。疲れてて当然なのかもしれない。
俺は今度こそ心も身体も休めるように、すぅっと眠りに落ちていった。
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