戦乱の街、騎士を待ち 3

 まぁそんな簡単には行かないよね。

 はい、早速問題が発生しました。


 それも結構……いや、かなり困るヤツが。


 青い鳥達の足に手紙を括りつけて、イニストに送り出した。

 グラシアの危機を報せる内容で、援軍を頼んである。

 これでトリシア達が普通に救援の要請を出すよりも早く来てくれる。


 筈、なのだけれど。


「ピィ! ピィ!」


 妹鳥だけが先に戻ってきて、慌てた様子で何かを訴えてきた。

 落ち着かせようとしても、翼をばたつかせるばかりだ。


「ちょ……一体如何したのさ?」


 かなりの緊急事態、らしい事は理解出来たけど。


「おいニャベル!」


 ニャベルとは既に合流できた。何でも、避難誘導を終えた後、クリスパレスを出てグラシア方面に向かう最後の馬車の荷台に紛れ込んで来たそうだ。

 俺達が乗って来たような貴族のではなく、商人達が使う荷物運搬用のものに女性や子供を優先的に乗せて避難してきた訳だ。


 そういえば言ってなかったけど、グラシアの間にも街や村はある。

 ただ、そこも基本的に新生リクリスタ軍によって制圧されていた。


 最も、小さな村なんかにはグラシアと違って戦う力なんてない。

 新生リクリスタ軍から派遣された兵士達も分かってるみたいで、大人しく従えば乱暴な事はされてないらしい。


 そこに生きる人々にとっては、遥か雲の上の出来事みたいなものだしね。

 あ、じゃぁこれからはそっちに税を納めれば良いんですねー、くらい。


 重税とか掛けられなきゃ、そんなもんだろう。ファンタジーの世界だし。


 日本だって総理大臣が交代しても俺達の暮らしが変わらないのと一緒だよね。

 最近消費税とか高いなーなんて思いながらも、学生は学び、社会人は働く。

 よっぽど理不尽な法案が通ったり、自分達の生活に降りかかってこない限りは反対運動とかもしない。


 まぁ日本の政治云々は置いといてだ、避難民の殆どはそういう場所で降りて働き始めたり、クリスパレスが落ち着いたら戻ろうかと考える人も多いみたいだ。

 やっぱり皆生活が大事だもんね。


 グラシア方面に向かう馬車は中々少ないようで、ニャベルはそれを上手く乗り継いで来たらしい。アイツ器用だなぁ。

 向こうの世界だったら電車に乗る猫としてテレビで紹介とかされそうだ。


 で、トリシアの前で手紙を落とした。

 例の避難者に混じって奇襲を企んでるっていう情報が書かれたやつを。

 物凄い達筆に書かれてたけど、一体誰が書いたんだろうね。まさかニャベルの字なんだろうか。


 信じてもらえたか如何かは分からないけど、効果はあったらしい。

 重傷で如何しても動けない人は仕方ないけど、非戦闘員は少しずつイニスト方面へと向かってもらってるみたいだった。


 だからこそ、イニスト方面でトラブルが起きているなら大問題だ。


 その為にも妹鳥の言いたい事を理解しなくてはならないんだけど。

 猫であるニャベルに鳥の言葉が分かるのかは謎だけど、俺よりはマシだろう。


「ニャベル! 何処にいるんだよ!」


「うるさいにゃぁ、ちゃんと聞こえてるにゃよ」


 何処からともなく現れたニャベルは、妹鳥の言葉に耳を傾けた。猫って神出鬼没だよね。

 探そうとすると見つからないのに餌が欲しい時や自分が構って欲しい時にはフラッと現れるんだからさ。


「……まずいかもしれにゃい」


 しばし耳をピコピコと動かして妹鳥の話を聞いていたニャベルは、真剣そうな表情でそう言った。


「一体何があったんだよ」


 君に説明してもらえないと俺、置いてけ堀なんだけど。


「イニストからの救援部隊……メンバー、覚えてるにゃ?」


「うん、勿論」


 思い出せるだけ思い出してみる。

 主人公マーテルは勿論、トリシアの相手役のカイ、そして次の物語の主要人物。

 そして皆の友人達。


「先ずにゃ……マーテルが、イニストにいないらしいにゃ。学園にも在籍してにゃいって言ってるにゃ」


 ああもうそれだけで色々ヤバいって想像が付くね、うん。


「だから、マーテルがいるからこそ起きるイベントが起きてにゃい」


 マーテルはイニストに来てないから、クラスメイトと友達になってない。

 故に、皆で『私達も誰かを助けよう!』という話が出ていない。

 だから、マーテルはグラシアへはやって来ない……のだろう。


 でも、如何いう事なんだろう。

 ちなみに、青い鳥達は学園中をちゃんと調べた上で言ってるそうだから間違いないと言ってるらしい。


 考える事は多々あるが……今問題なのは、カイの方だろう。

 最初、マーテル達に雇われる形で一緒にグラシアに来るのだから。


 つまり、このままではカイがグラシアに来ない可能性も高い。


 援軍が来れば、トリシアの命は救えるだろう。

 だが、恐らく精神的に救う事は出来ない。

 カイがいなければ、彼女は学園には行かず……きっと、新生リクリスタと戦い続ける道を選んでしまう気がする。


 イニストや他国との連携が取れていない今の状況では、それは如何考えても無謀だ。

 トリシアは遠からず、戦死してしまうだろう。


 このままでは、二人の運命は交わる事のないまま……幸せなエンディングを迎える筈なのに、変わってしまう。


 そこまでの改変は、流石に気が引けた。


 だって、俺は知ってるんだ。

 トリシアのモデルである夏海純ちゃんも、同じだったから。


 小さい頃に家に強盗が押し入ってきて、両親は亡くなり。

 純ちゃんは殺されはしなかったけど、長い間監禁されていた。


 隙を付いて脱走する事は出来たけれど、そこは全く知らない場所だった。

 自力で帰る事も出来ず、親の仇である強盗犯から闇雲に逃げ回り――行き倒れていた所を子供のいない夫婦に助けられ、養女として迎え入れてもらった。

 その時には、今までの記憶を失っていたらしい。


 しかし中学生に上がる前には、育ての親が病で相次いで亡くなり……彼女は、俺達の学校の中等部に入学した。

 うちの学校って、複雑な家庭に対して補助もしてくれるからね。


 そこで、純ちゃんは巡り合う。幼馴染であった、笹野快(ささのかい)と。


 直ぐには思い出せなかったり、紆余曲折はあったけれど……快と純ちゃんは、今は仲の良いカップルだ。


 秋陽の書いた物語のカイとトリシアのように――快は純ちゃんの高校卒業と同時に結婚する約束をしてる。


 俺は如何にか、カイとトリシアにもそうなって欲しいと思ってる。


 あのエンディングは、秋陽は勿論、純ちゃんの事を知ってる皆の願いでもあるんだから。

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