さてまずはクーデターを生き延びなきゃいけない訳だが 8

 この猫に、そんな知恵はあるのだろうか。とてもそうは見えないけど。


「にゃ。俺は長靴を履いた猫である、名前はニャベル、にゃ」


「うわ喋った!」


 つい驚いちゃったけどさ、良く考えたら喋る猫って『災厄姫』の世界には他にもいるんだった。


 ほら、秋陽に限らず女子って皆、基本的に可愛い生き物が好きだろう?

 なので『災厄姫』の世界にも、猫やら犬やら妖精やら大量に出てくる。


 その中でも秋陽は特に猫が好きだから、猫の数は桁違いだ。

『災厄姫』に限らず他の作品にも猫は沢山出てくる。


 だから、それ自体は不思議には思わないのだけど。


 でも俺、こんなキャラがいるなんて聞いてないぞ。


「いわゆる、裏設定というヤツにゃ。本編には書かれてにゃいけど、俺という存在は作ってもらえたのにゃ」


「ええええええ⁉」


 何で自分で設定とかメタな事言ってるの?

 俺以外で、何で自分が秋陽の作った小説の登場キャラクターだって自覚してるの?


 俺の困惑っぷりや疑問は予想済みだと言わんばかりにニャベルは答える。


「言うなれば創造主である市川秋陽が俺を可愛がってくれたから、にゃ」


 つまる所、秋陽はアシュレイが召喚するキャラクター達を創造する時、童話のストーリーや解説を調べていた。

 そしてニャベルというキャラを作るに当たって、長靴を貰った賢い猫を、そういう風に解釈したという事なんだろう。


 そしてまぁ、作者が特に愛するキャラクターをやや贔屓してチートを授けるっていうのは別におかしい事ではないのかもしれないけれど。


 だからってさ……メタな視点を持った猫にするっていうのは、正直ないと思うんだよ……。


 多分、それが本編にニャベルを出せなかった理由だよね、秋陽?

 お気に入りだったろうに、勿体ない。


「まぁ俺の事は兎も角、にゃ。クーデター勃発時のクリスパレスの住人の避難は俺に任せるにゃ」


「マジ?」


 だって君、猫だよ?

 本当に分かってる?


「みゃじ、にゃ」


 俺の不安を他所に、ニャベルは胸を張った。

 上機嫌そうに、尻尾もピンと立っている。


 ただ、俺と同じ色の蒼い目は真剣だった。


「流石に、誰もが無傷に済ませるのは無理にゃけど。でも助かる人間を増やす事は、ちょっとは出来るにゃ」


「……じゃぁ、頼むよ」


 まぁ、猫ならば人間の手の届かない狭い場所に潜り込む事も出来るだろう。

 いざという時も逃げやすい筈だし。


「その代わりに、先ずは手袋をくれ、にゃ」


 もしかしてそれは願いを叶える代金なのか。

 秋陽は猫が長靴を求める理由をそう解釈したのか。


「まぁ、分かったよ」


 手袋で俺達の安全や誰かの命が買えるなら、安い買い物だろうし。


「じゃぁ早速。上手くやる為に召喚して欲しいのがいるにゃ」


「へ?」

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