さてまずはクーデターを生き延びなきゃいけない訳だが 7

「ピ」


 妹鳥は一旦飛び立ち、二段目の引き出しの取っ手の上に止まる。

 開けろ、って事で良いのかな。


 素直に従って開いてみると、中には地図があった。ああ、これは助かるな。


 俺は地図を広げてみる。丸まらないように、机の上にあった鳥の置物や筆記用具を四隅に置いた。


「えー……と」


 文字は分かる。

 が、自分が今何処に住んでいるのかが分からない。


 そして、舞台となる世界のどの辺りに位置するのかは分かっていてもグラシアが見当たらない。

 ほら、社会科の授業でさ、地図帳開いたって中々目的の地名が見つかる訳じゃないだろう?


 痺れを切らしたらしい妹鳥が、嘴で二か所を指し示してくれた。一つはグラシアと書かれている。ここが目指すべき場所なんだね。


 で、もう一か所が現在地なんだろう。

 うーん、大分西の方だなぁ、グラシアもイニストも結構遠そうだよ。


 街の名前は、ふむふむ……く、り、す、ぱ、れ、す?


「って、此処がまさに王都じゃないか!」


 西王国・リクリスタの王都、クリスパレス――クーデータの起こる舞台。

 それが示す意味は、激戦が繰り広げられる一番危険な場所に俺達はいる、という事だ。


 ああ、言われてみれば窓からも確かに城みたいな建物が見えるな!

 そうだったサライフィア家って結構な貴族だった。

 近いとかやばいじゃないか!


 時間がどれくらい残っているのかは分からないが、正直一刻の猶予もないだろう。

 早く離れるに越した事はない。


 幸い、クリスパレスからグラシアまでは大きな街道が通っている。

 確かに、軍事拠点として物資の輸送路が必要という事はあるけれど……平時は、他国との貿易の拠点として栄えてる訳だからね。


 まぁ、だからこそ新帝国軍は是が非でもグラシアを落としたかったんだろう。

 此処を押さえてないないと色々困るよね。


 最悪グラシアどころかイニストに非難する方向で考えた方が良さそうだ。


「ピィ……! ピィ……!」


 しかし、そこで兄鳥が悲しそうに鳴いた。

 察するに、皆にも教えてあげよう、助けてあげよう、という事なのだろう。


「……残念だけど、全員は助ける事は出来ないと思うよ」


 例え俺が呼び掛けたとしても、信じて貰えるか如何かは分からない。

 下手したら逃げるどころか捕まる可能性だってある。

 クーデターの情報を漏らしたなんて、最悪殺されてもおかしくない。


 それに、実際に戦が起きれば――被害ゼロで済むなんて事、絶対に有り得ない。


「ピ……」


 兄鳥はしょげたように首を落とした。

 その姿があまりに可哀想で、見ていられなかった。


 だからつい、俺は口走ってしまう。


「何か、考えては……みる、よ」


 俺は手元にある童話集にそっと触れた。


 何か、こういう事態に対処出来る奴はいないものか。


 そう考えていたら、先程とは違い勝手に蒼い魔法陣が現れた。

 若干、俺の身体から何かが抜けていくかのような感覚に襲われる。


 青い鳥の時はあまり意識していなかったが、この虚脱感が魔力を消費するという事なんだと思う。


 多分、運動と同じで『激しく動けば疲れる』のと変わらないのだろう。


 そんな、俺の魔力を勝手に使って勝手に現れたのは。


「にゃーん」


 猫だ。

「は?」


 柔らかそうな金色の毛並み。

 ブルーの目には何故か眼鏡を掛けている。


 あはは何でだろうね、猫なのに俺にそくっりだ。

 自分で言うのも悔しいんだけど目付きが特に俺。


 次に、俺は猫の後ろ脚を見て、この猫が何者であるかを理解した。


「……『長靴を履いた猫』?」


 ヨーロッパに伝わる民話で、日本ではシャルル・ペローの寓話集に収録されているストーリーが一般的には知られているだろう。


 三兄弟の末子が遺産として相続した猫は知恵者だった……言葉巧みに貧乏だった飼い主を侯爵に仕立て上げ、最後には王様に気に入られ姫を嫁に貰い、本物の貴族にしてしまうのだ。

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