さてまずはクーデターを生き延びなきゃいけない訳だが 6
そして、俺を見てわずかに戸惑っているようだ。
俺が、何時ものアシュレイと少し違う事を感じ取ったのかもしれない。
「えっと……言葉は分かるかな?」
兄鳥はこくんと頷いたが、妹鳥の方は俺を睨むように見上げている。
そんな彼らに、俺は静野綴という高校生である事を説明した。
まぁ、俺自身この状況を良く理解している訳でないけども。
「ピィ」
とりあえず俺はアシュレイであって微妙に違う事は分かってもらえたらしい。
「それでね、君達に探してもらいたい子がいるんだよ」
誰? と言いたそうに、兄鳥は首を傾げた。可愛い。
「名前はね、トリシアっていうんだ」
如何しても、彼女を見つけなくてはならない。
トリシアは、リクリスタの登場人の中では最初のキーパーソンだ。
彼女は元々、東王国・カンタリーネの出身だ。ハーヴェイル家という名門騎士の家に仕える、メイドの娘。
その家の子息・カイの幼馴染で、大きくなったら結婚しようねと約束するような仲だ。
しかし、彼女は誘拐され……リクリスタに連れて来られて、貴族の下働きとして売られる。
商人と人身売買で人手を求める貴族なんて碌な奴じゃないよね。奴隷みたいな待遇だ。
同じ貴族とは言え、カイやその家族みたいに良くしてもらえる事はなかった。
何年も奴隷として過ごして……でも運良く、逃げ出す事が出来る。
そして行き倒れていた所を拾ってもらった老夫婦から、今度は実の娘みたいに扱ってもらえた。
老夫婦と一緒に暮らしながらお金を貯めて、三人でカンタリーネに移住してカイとも再会しようと誓っていたんだけど。
クーデターが起きて――戦闘に巻き込まれた老夫婦は、命を落としてしまった。
復讐心を抱いたトリシアは反乱軍を組織して、新リクリスタ帝国軍に抵抗する事を決める。
でも、悪く言えば反乱軍は烏合の衆だった。
仕方ないよね……彼らは逃げて来た民間人の集まりだ。
怪我人が無理を押して戦っているようなものだし、限界がある。
対する相手は正規の軍隊だ、確保している物資も多い。
そして帝国軍に奇襲を受けて、あわや全滅という所まで追い込まれるんだけど。
如何にか、イニストからの救援が間に合うんだ。
援軍の中には……カイがいて、二人はやっと再会出来る。
トリシアはその後、イニストのユミトリシュ学園で保護される事になった。
そしてカイとトリシアは、老夫婦を弔う事と、卒業後は結婚する約束をする。
『第二章、災厄姫と戦乱の街』は、こうして終わるんだ。
つまり何が言いたいかというと。
シルヴィアの手を借りながらトリシアの反乱軍に合流する事が一番安全だって事だ。
そんな俺の考えを感じ取った妹鳥が、何か言いたげに半眼になって俺を見詰めてくる。
貴方がシルヴィアを守りながらトリシアを助けに行きなさいよ。そんな感じだろう。
俺だって活躍したいよ?
助けてくれてありがとうアシュレイ様みたくモテたい、ぶっちゃけ。
なんて考えてたら嘴で突かれた。痛いよ。
「兎に角、トリシアの事なんだけど。目と髪は金色。リクリスタの何処かにいると思……いった!」
俺はそこまで言うと、妹鳥にまた突かれた。
今度は……探すにしたって広すぎるわよ、とでも言いたそうだ。
まぁそうだよね。しかも名前と簡単な容姿だけじゃね、無理過ぎるよね。
これが向こうの世界だったならなぁ。
モデルになった夏海純(なつみじゅん)って子の画像見せれば一発なんだけど、生憎この世界にスマートホンなんて文明の利器は存在しない訳で。
「えぇと……舞台になる戦乱の街の名前は」
リクリスタの中でも東に位置して、比較的イニストに近い。
元はイニストが出来る前に、三つの王国から何か仕掛けられた時に防衛する為の軍事拠点として造られた都市だ。
城壁に囲まれていたから、トリシア達反乱軍が籠城して持ちこたえられたんだよね。
「そう、赤砦都市(せきさいとし)グラシアだ」
目的は決まった。シルヴィアを連れてグラシアを目指す事、だ。
なるべく迅速に、そして気取られないように。
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