さてまずはクーデターを生き延びなきゃいけない訳だが 5
まずは、俺がどの程度戦えるのかを確かめたい。
出来るならば人を殺すつもりはないけれど、そうも言ってられない場合だってあるかもしれない。
そうなったら俺は、やっぱり自分が生き残る選択をする。
どっちにしろ、自分で身を守る必要はあるんだし。
アシュレイは魔術師だ。
つまり、俺は魔術が使えなければ、ただの一般人だ。それだと絶対に困る事になるだろう。
俺は更に机の周りや本棚を見てみる。魔術の本か何かを探した。
出来れば『猿でもわかる入門編』みたなのがあると良いんだけど、流石になさそうだった。
まぁ仕方ないか、アシュレイは魔術に長けている設定だったし。下宿先に持ってくるには荷物になるからかもしれない。
でも俺は困るんだよね、それだと。
自室なんて狭い空間で炎だの雷だの試す訳にもいかないだろう?
出せたとしても俺が危ないよ、自分の魔術で怪我をするとか笑えないジョークだ。
無傷で済んだとしても、今度こそシルヴィアに問答無用で病院に連れて行かれても仕方ないくらいの。
俺は必死で記憶の糸を手繰り寄せる。
アシュレイはどんな魔法を使っていたか。
せめて得意だった物の方が制御とかしやすいだろう。
それに、知識と同じで身体が覚えてると思うんだ。多分。きっと。恐らく。
物語の先を、チラチラと見た事はある。ネタバレしても差し障りのない範囲で、秋陽が話してくれた事もある。
その中にはアシュレイが戦うシーンや魔術に関する設定だって、あった筈だ。
ちなみに、シルヴィアは治癒と氷雪の魔術が得意だ。
怪我をしても治してもらえるとは思うけど、俺はやっぱり痛いのは嫌だから、やはり自衛の方向で。
「そうだ、本だ」
キャラクターとしてのアシュレイに贈られた力は、二つ。
その内の一つが召喚魔術だ。
アシュレイは普段から童話集を持っていて、そこから童話の登場人物を喚び出す。
うん、非常に俺の好みだよ。多分俺の読書好きな所を強調しようと思った結果なんだろう。
反面アシュレイは物理攻撃や物理防御は物凄く低い。前線に出たらあっと言う間に沈む。いわゆる紙だ。誰かに前衛で盾になってもらわないと直ぐ落ちる。
秋陽先生、そんなデメリットなんて無くても良いんじゃないかなぁ?
バランスなんて考えなくても良いと思うよ!
アシュレイは前衛とか後衛とか関係なく無双出来る設定で良かったと思うな!
それは兎も角、俺はアシュレイの童話集を手に取る。
最初、目が覚めた時に俺が触れていたあの本だ。
俺が秋陽の原稿を読んでいたように、アシュレイは童話集を読んでいて寝落ちしたらしい。
眼鏡も掛けたまま、そんな細かい所まで似てるなんてさすが俺。
さて、何の話にしようかな。
ページを捲る俺の目に、ある挿絵が飛び込んできた。
「あ、丁度良さそうだ」
大きさとか多分手のひらサイズだろうし、シルヴィアにも気取られないだろう。
きっと召喚しても大丈夫だ。
「よし」
俺は挿絵に手を翳す。
魔術や魔法というのは、イメージが大切だ。
それは基本的に古今東西の作者や作品を問わず、魔法の類が出てくるファンタジーに共通している事だろう。
だから俺は、頭の中で思い描く。挿絵がそのまま現実世界に飛び出してくるのを。
果たしてそれは上手くいったようで、空中に蒼い色の魔法陣が浮かび上がった。
魔法陣から飛び出して来たのは――二羽の小鳥。
モーリス・メーテルリンクの作品の絵から出て来た鳥達は、青い羽がとても鮮やかだ。
不安はあったが、俺の召喚魔術は成功したらしい。
ちなみにアシュレイが召喚するのは、羽の先が白い方が穏やかな性格の兄鳥で、黒い方が気の強い妹鳥である。
死と生命の意味が主題である事に因んで……陰と陽を表す黒と白の色、そして雄と雌の番にしてあるんだそうだ。
そんな二羽の鳥達はまず、指定席らしい止まり木にちょこんと止まった。
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