さてまずはクーデターを生き延びなきゃいけない訳だが 4
俺は取り敢えず机に座って、引き出しを開けた。大事な書類とか、もしあるならば此処だろう。
まぁ俺が現実世界でそうしてるから、っていうのもあるけど。
やっぱりアシュレイは俺であるみたいで、引き出しの中にはアシュレイの日記があった。読んでみる。
やはり、クーデターは起こっていないらしい。
書かれているのは、アシュレイの日常だった。
ただ、秋陽が書いていた通り……今のアシュレイは、荒れていた中学生の時の俺だ。
時々、ある人物に対しての罪悪感などが書かれている。
アシュレイには、兄がいた。
名前はヴィルフリート・クライネル。
金の髪をしている事以外、二人は似ていない。アシュレイよりも背が高くて、力もあった。
何より、その瞳の色が違う。アシュレイと正反対に深紅で……まるで血の代わりに、悪意が滲み出るかのような瞳。
何故かは分からないけれど、昔から兄には嫌がらせばかりをされていた。物を奪われたりするのは当たり前。
貴族の長男で、将来も約束されてたようなモノで……金にも女にも困っていない癖にね。
アシュレイには、ルクレティアという恋人がいたんだけど……ある日、ヴィルフリートに殺されてしまう。
理由は、ルクレティアを好きだった訳じゃない。
アシュレイから奪ってやりたかっただけだ。
けどルクレティアはヴィルフリートを拒絶する。
結果、アシュレイが彼女の家を訪ねると……ルクレティアはヴィルフリートに殺された直後だった。
アシュレイ自身もヴィルフリートに瀕死になるまで甚振られる。
そしてヴィルフリートは姿を消し、アシュレイは遠縁だったサライフィア家に引き取られた。
それが此処、シルヴィアの家だ。
確かに、秋陽は俺が簡単に話して聞かせた事しか知らない。
だから、誇張して書いてある部分もある。兄ではなくて親戚だったり、実際に死者が出た訳ではないけれど。
大凡、これは俺に実際に起きた事だ。
そして、アシュレイは……秋陽や誰かに打ち明ける前の、辛い感情を溜め込んで胸の中で燻ぶらせていた俺だ。
だからこそアシュレイは……災厄を抱えるマーテルに出会って、惹かれるんだろう。
マーテルは、救いを求めていたから。何より、二人は同じだったから。
同時に衝動を抑えられなくなって、救済と謳いながら人を魔物に変えていくんだろう。
自分と同じ、如何しようもなく救いを求める人々を救いたくて。
ああ……ごめん、アシュレイ。俺は、出来ない。
今の俺はもう、救われてしまったから。
あの高校に入って、友達も出来て、家族とも改めて話し合って……秋陽とも、また幼馴染と呼べるような関係に戻れた。
違う救い方があると、知っているから。
だから、救済対象と出会ったとしても魔物に変える事はしないと思う。
秋陽もごめん。きっと、俺は君の綴った物語を変えてしまう。許して、くれ……。
同時に思う。
俺は、何としても元いた世界に帰る。
静野綴に戻るんだ。秋陽に会って、謝ろう。
その為にも、俺はやっぱり生き延びないといけない。
変えると決めた以上は『変わってしまう事』だってあるかもしれないから。
それがキャラクター達の辿る生死に関する事で、あってもだ。
気を抜かずにいこう。
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