さてまずはクーデターを生き延びなきゃいけない訳だが 2

 同時に嫌な予感もする。

 此処はもしや、異世界というヤツではなかろうか。


 まさかなぁ。いや、俺の知ってる地球上の何処かだとしてもびっくりだよね。

 寝てる間にとは言え全く気付かずに移動してる、若しくはさせられてるとか、ファンタジー通り越していっそホラーの領域だと思うんだよ。


 そんな事を俺が考えていると、部屋のドアがノックされた。


「……イ、もう起きてる? おはよう!」

 雪奈の声だった。え、雪奈も一緒にこの変な状況に置かれているのか?

 にしては何時も通りの明るい声だ。


 取り敢えず俺は自分の身体を確認する。寝起きのままだけど……まぁ、大丈夫だろう。シャツにスラックスって俺が寝た時と格好も違うけど。って事は着替えさせた人がいるって事だよね。怖っ。だったら寧ろファンタジーであって欲しいよ。


 まぁ兎に角だ、起きてる訳だし。雪奈を待たせるのも悪い。

 さっきの声に混乱は感じられなかったし、雪奈は何か知ってるのかもしれない。


「うん、おはよ……う?」


 ドアを開けると、そこにいるのは確かに雪奈だった。ニコニコと、朝に見ると元気を貰えるような笑顔。

 着ている沢山のフリルがあしらわれたワンピースは、寧ろドレスと呼んでも良いんじゃないかな。丈長いし。でも可愛らしくも上品で……雪奈にとても良く似合っている。

 まぁ、雪奈の私服はこんな感じのが多いから、そこは驚くポイントではない。


 俺の思考が停止してしまった理由は――雪奈の髪が、キラキラと白く輝く銀色だった事だ。

 瞳の色も、さっき見た空と同じ、澄み切った碧色に。


 一応言っておくけれど、雪奈は日本人だ。少し色素が薄いらしくて、染めなくても茶色っぽい髪をしてる。


 けどこんな見事な銀髪にするには、幾ら脱色をしたり強いヘアカラーを使ったとしても、一晩じゃ無理だろう。


 彼女の名前の通り、穢れのない処女雪のような銀色の髪……外国人にだって、そうはいない。


 瞳はまぁ、最近のカラーコンタクトは凄いって事だとしても。


 兎に角俺は雪奈の変わりように驚いて暫し固まった。


「……雪、奈? 如何したの、その……髪と、目」


 俺はやっとの事でそう言葉を発したんだけど、雪奈は首を傾げた。


 そんなに変わってしまっているのに、何故か違和感は全くない。まるで、雪奈の容姿は最初からそうだったかのように。

 驚いてはいるけれど、受けいているのだ。


 雪奈はと言うと、不思議そうな表情で俺を見上げていた。


「ゆきな? 誰⁇」


 へ?


 俺の頭にもだが、雪奈の頭の上にも大きな疑問符が浮かんでいる。


「えっと……アシュレイ、如何したの? 変な夢でも見たの?」


 は? アシュレイ?

 アシュレイって、俺の事? 


「もしかして、寝ぼけてる? 私はシルヴィア・サライフィアだよ? ユキナじゃないよ?」


 その時、俺は気付いた。雪奈……いや、シルヴィアか。

 彼女の背後にもガラス窓があり、鏡のようにシルヴィアの後ろ姿と俺を映しだしている。


 そこにいる俺は、淡い金の髪と深い蒼の瞳をしていた。俺だって日本人であり、標準的な容姿をしている――少なくとも昨夜の俺は黒髪に黒目だったのに。

 そしてやはり、妙に違和感を感じない。


 更に俺は気付く。

 金髪蒼眼のアシュレイと、銀髪碧眼のシルヴィア。どちらも『災厄姫』の登場人物である。


 そして、アシュレイのモデルが俺であるように……シルヴィアのモデルは、雪奈だ。


 まさか、そういう事?


(ここは秋陽の書いた……災厄姫シリーズの世界、なのか?)


 異世界に転移した。それを否定したくて外を見たり雪奈に話を聞こうと思った。

 普通に考えて有り得ない筈なのに、そうだとすると合点がいく事ばかりだ。


 明晰夢、のようなモノかとも思った。まさに秋陽の小説を読みながら寝てしまったから、その影響だろうかと。


 こっそり手の甲を抓ってみる。痛い。さっきも本に触れる感触がちゃんとあった。


 だから多分、夢ではない。


(アシュレイの部屋なら、イコール俺の部屋みたいなものだよな)


 俺の部屋じゃないけど俺の部屋だとか、俺達は最初からこういう容姿をしてたと受け入れているような……そんな不思議な感覚にも説明が付く訳で。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る