第二章

さてまずはクーデターを生き延びなきゃいけない訳だが 1

 あっ……やばい。寝てしまった。

 うつ伏せの変な恰好で眠ってしまった所為か、関節が痛い。特に首と肩が。


「んーっ」


 起き上がって、ベッドに座る。そして軽く首を回した。右手が紙に触れる感触がある。


「あ……そうだ俺、秋陽の読んだままだったっけ」


 段々と思い出してきた。

 先ずは掛けたままだった眼鏡を確認する。ああ良かった、割れてない。スペアはあるけど、やっぱり普段使ってる方が慣れてて良いよね。顔の一部みたいなものだからね、ないと困る。


 そして、今日は何からしたら良いんだろう。色々と憂鬱だ。


 取り敢えず制服に着替えて朝御飯を食べて、秋陽の様子でも見に行くか。

 で、あわよくば一緒に登校しよう。


 そう言えば去年は同じクラスだったんだけど、一緒に日直をする日があった。学級日誌を取りに行ったり、軽く教室の掃除をする為に、日直は何時もより早めに登校しなきゃいけない。だから一緒に登校しようと前日に約束してた。

 けど秋陽は盛大に寝坊をしたらしく、俺がインターホンをずっと鳴らし続け(秋陽はこれを鬼ターホンと呼んでいる)てやっと起きた……なんて事があったな。


 よし、早めに行く事にしよう。


 そう決めて、俺は触れていた本を閉じる。

 ん? ……本?


 いや、俺が読んでたのは秋陽の原稿だ。大き目のクリアファイルに入れてるだけで、製本はしてない。


 あれ、如何いう事だ? 俺が寝ぼけてるのか?


 俺は本を手に取る。そしてタイトルを読んでみ……ようと、したんだけど。


「何だこの文字」


 英語っぽいが、何か違う。でも何故か読める、不思議。

 読もうと思えば内容が頭の中に入ってくる、というか。便利なような気持ち悪いような。


 そして俺は気付く、ここは俺の部屋だけど俺の部屋じゃない。いや逆だ、俺の部屋じゃないけど俺の部屋だ。

 よく分かんないけどそう思う。


 パッと見た感じ、六畳くらいの広さって言うのは同じだけど。

 まず、電化製品の類がない。うっわ、部屋の照明ランプだよ! 夜とか絶対暗いじゃないか。

 更にエアコンとかもない。夏絶対暑いって、俺死ぬから。


 ただ何て言うか、置いてある家具とかは俺の趣味だ。机とか椅子とかベッドとか。

 いや俺の部屋よりもずっと俺の好みじゃないか?


 家電がない事以外はまさに俺の理想。


 次に目に入ったのは本棚だ。やはり、全部が英語っぽい文字で書かれている。

 適当に手に取ってパラパラとページをめくってみる。


 何冊か見てみたが、漫画の類は一切ない。全部小説、たまにライトノベルっぽいのが混ざっているみたいだ。

 内容は西洋ファンタジー物ばかりだった。


 本当はゆっくり読んでみたいけど、今は自分の現状を把握するのが先だ。


 うーんと……そうだな、窓から外を見てみよう。

 漠然と『此処は俺が生活している場所だ』という認識はあれど、全く持って訳が分からない。

 一体何処なんだろう。


 カーテンの隙間からは白い光が漏れている。一気に開けてみると、眩しい光が俺に注がれた。


「っ……」


 俺は反射的に目を閉じる。陽の光はほんのりと暖かく、それは何処であろうとも変わらないらしかった。


 ゆっくりとだが光に慣れてから、俺は外の景色を見てみる。

 鳥のさえずりと晴れた空の色から察するに、時間は朝のようだった。


 肝心の景色は……一言で表すと、まるで中世ヨーロッパのような街並みである。


 まず分かったのは、此処は何かの建物の二階である事。窓から見える建物の、二階部分と高さが同じだったから。

 そして建物は皆、如何やら煉瓦造りのようだった。あとは、道はコンクリ―トではなくて石畳で出来ている。


「何処だ此処。こんな場所、知らないぞ俺」


 いや何となく、そんな予感はしてたけどね……。


 まだ朝だからなのか、ちらほらとしか見えないが……街の住人らしき人の服装も、昔の西洋の物だった。


 それも『大体の人が頭で思い描く西洋ファンタジーの世界の人が着ているような服』だ。資料とかで調べてみる『現実の中世ヨーロッパの人の服装』とは違うと思う。


 そう……ここは所謂『剣と魔法のファンタジーの世界』に見えた。そんな考えが頭に浮かぶと、妙に俺自身も納得してしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る