偶然、それはきっと俺のチート 4

 俺は腰の辺りまで布団を掛けた状態で、寝転がりながら俺は読んでいた所を探す。


 そう、マーテルとアシュレイが出会うシーンだ。


 金髪蒼眼に眼鏡を掛けた魔術師であるアシュレイは、何を隠そう俺がモデルなんだ。

 何故か非力が強調されているんだけど、それについても秋陽に問いたださなきゃいけない案件である。


 こっち……原稿の方でも、フェリシアが駆け落ちしてマーテルが唯一の王位継承者になるのは同じ展開だ。


 ただ、マーテルは西王国・リクリスタのとある街で、救護活動を手伝っている時にフェリシア失踪の報せを聞く。

 そして偶然、ミシェルという若い青年に手を引かれて南の国へ逃げようとしているフェリシア本人と出会うんだ。


 でも、マーテルはそこで悩む。自分を災厄姫にした祖国に対して、不信感もあれば怒りもある。

 何よりフリズレイアを憎んでいる自分は、国を守る者として相応しくないと思っていた。

 災厄は何時かフリズレイア全体を飲み込み、マーテル自身も焼き尽くしても、きっと止まらないだろう。


 災厄と忌み嫌い、災厄を育て、災厄を利用する。名前も奪われ、貶められ、踏み付けて当然という扱いをされただけじゃないか。フリズレイアが、父王が、魔術師達が私に何をした。

 あんな国は滅茶苦茶になってしまったって構わないだろう? マーテルが災厄である事を望んだのだから、本物の災厄になってやれば良いのだ。


 でも、私は真に『災厄姫』にはなりたくない。誰かを不幸にする事しか出来ない自分なんて、認めたくない。違うと言いたい。

 私だって……誰かを幸せにしたい。誰かと幸せになってみたい。


 そんな二つの心の声が、マーテルの中に同時にあった。

 どちらも、本心であった。消す事は叶わない。


 存在理由と正反対の願いも理性も……マーテルに、完全に憎しみを捨てさせる事は出来なかった。


 何時破裂するか分からない爆弾のような自分では駄目だ。


 真に国の為を思うならば……フェリシアをフリズレイアに連れ戻すべきではないか?


 そんなマーテルの前に現れるのが、アシュレイ・クライネルだ。


 アシュレイは、自分は唯一マーテルを救済出来る存在だと言って……マーテルの頭を掴み、魔力を送り込む。

 魔物になってしまう所を仲間から間一髪で助けられるんだけど、アシュレイは何時の間にか消えてしまっていた。


 兎も角それで冷静になったのかな……マーテルは、フェリシアが『祝福』も『王女』も関係ない、一人の女の子としてミシェルと幸せになるのを応援する事にするんだ。


 そして、頭の片隅にアシュレイという存在を残しながらも、マーテルは次に起こる出来事に奔走する。


 こうやって改めて読むと、うわぁ俺って最初悪役なのかぁと若干ショックだ。


 まぁ仕方ないよね、俺実際……秋陽の頭掴んだ事あったし。家族の事で悩む秋陽に酷い事をした。

 幾ら苛々してたとしても、あんな事はしてはいけなかった。


 ああ、ごめんね秋陽。


 急に睡魔に襲われた俺の、この日の最後の思考だった。

 逆らう事も出来ずに、俺はそのまま意識を手放す。

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