偶然、それはきっと俺のチート 3
改めてネットの方のストーリーをまとめてみよう。
目的地に向かう馬車の中、盗賊に襲われるマーテル。そこに偶然通りかかった魔術師のキルシュに助けられる。
そしてお互い一目惚れする。
うん、腹立つレベルで王道だね。
でもキルシュの持ってる杖に彫刻されている家紋は、今回マーテルが殺すよう指示された家のモノだった。
あーはいはい運命の悪戯運命の悪戯。
潜入用の身分であるキルシュの家の新しいメイドだというのがバレて、一緒に実家の侯爵家に連れて行かれる。
その辺りは既にキルシュの家の領地なんだそうだ。
で、キルシュの強い要望で世話役になれて割と側で過ごす事になった、と。
ちなみにキルシュが暗殺される理由は、フェリシアに求婚したから。
娘大好きな父王の怒りを買ったという訳だ。
それを知ってるマーテルは『ああこの人もフェリシアを愛しているんだな』と嘆きながらも、好きになってしまったからキルシュを殺したくなくて災厄を抑え込もうとする。
まぁ若干無理なんだけど。フェリシアへの嫉妬とかで段々溢れて来ちゃうんだけど。
そりゃね、好きな人が違う相手を好きって分かってるのに側にいるってのは辛いよね。
なんかむかつく。
しかし――新事実発覚。
なんと、フェリシアに求婚したのはキルシュの兄の方だったのです。
マーテルは王族として扱われてないからね、貴族の顔とかあんまりよく知らなかったんだね。
しかもキルシュは普段イニストに留学してたから、尚更勘違いしちゃった、と。
兄が求婚した事で王と揉めた挙句失踪、それでキルシュが実家に帰ってくる道中が二人の出会いだったそうだ。
そして肝心のフェリシアには、如何やら密かに恋人がいるらしい。
で、駆け落ちを手伝ってあげて、兄の問題も片付ける。
そして……フリズレイアには王位継承者がいなくなった。キルシュの支えを受けて、災厄を弱める事も出来たマーテルは、次期女王として迎えられる。
めでたしめでたし。
とは行かず……誰かが不穏な事を企んでいる、という所まで書いてあった。
恐らく西の国、なんだろう。恐らくこれから、宣戦布告してくると思われる。
時期女王としてのマーテルに降りかかる最初の試練、と言った所か。
「……寝る、かなぁ」
しおりを挟む機能のボタンをクリックしてから、俺はパソコンをシャットダウンした。
椅子から立ち上がり、身体を軽く伸ばした。固まっていた筋肉が解れるようで気持ち良い。
いや俺、言う程筋肉なんてないけどさ……ないけどさ……。
寝る前に、何となく窓を開けてみた。
暖房で暖まっていた部屋の中に、冷たい夜の空気が流れ込んで来た。
そして何となく、秋陽の家の方向を見た。
白い壁にキャラメル色の屋根、小さいながらも庭がある洒落た造りの家。
今は二階にある秋陽の部屋にだけ、灯りが付いていた。
「……」
俺はしばらく、無言のまま見つめていた。
秋陽は今、何をしているんだろう。今まさに『災厄姫に幸福を』を書いているんだろうか。
部屋の空気が入れ替わったのか、寒さを感じた。俺は静かに窓を閉める。
「明日、聞いてみるか」
そう呟いてから、更にカーテンを閉めた。洗面所で歯を磨いて、後は寝るだけ。
ベッドに入ってみたけれど、まだ睡魔はやってこなかった。目を閉じてじっとしたり寝返りを打って体勢を変えたりする事、約三十分。
まだ眠くない。
俺はベッドサイドのランプだけ付けて、手の届く範囲に置いてあった鞄を漁る。
中に何冊か、文庫本が入っている筈だ。眠くなるまで読書と洒落込もうじゃないか。
ゴソゴソとまさぐった結果、俺の手が取ったのは――現代文の教科書だった。
ああうん、確かに一番眠くなる本だね。でも流石にこれは読みたくない。
そんな訳で再び鞄を漁る俺の手に次に触れたのは、まさかの秋陽の原稿だった。
偶然にも程があるだろ。
「……まぁ、良いか」
これも続きが気になっている物語の一つではあるし。
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