偶然、それはきっと俺のチート 2
普段は朗らかで、可愛らしい笑顔の絶えない雪奈――そんな彼女が今は表情を曇らせ、心配そうに俺を見つめている。
ともすれば、泣きだしてしまいそうだった。
いや、既に目尻が潤んでいる。やばい。何とかしなければ。
「えっと、その。ドッキリする動画見ちゃってさ」
咄嗟に誤魔化したが、厳密に言えば嘘じゃない。ビックリ動画は見てた、小説を閲覧する前にだけど。
そっちよりも小説の方に衝撃を受けた事に衝撃だよね。
「良かったぁ……びっくりしちゃったよ」
しかし、兎に角雪奈は安堵したらしい。本当に良かった。やっぱり女の子は泣かせたくはないもん。
「あははは、ごめん」
「夜更かししたら駄目なんだからね?」
俺が如何にか笑って見せると、雪奈も何時もの調子に戻ったようだ。
「ネットも程々に、だよ! お休みなさい!」
「うん、お休み」
雪奈は俺にそう言って、自分の部屋に戻って行く。
くっ……年下に叱られてしまった。
はい、唯でさえ低い視力がもっと悪くなってしまわないよう気を付けます。
けれど今は、如何しても液晶に表示されている小説の内容が気になった。
改めて、俺はパソコンの画面に向き直る。
災厄姫に幸福を、の文字をクリックした。
タイトル、その下にあらすじ、そして目次が書いているページに飛ぶ。
新着順で見つけたからか、本文はまだ少ない。
プロローグと第一章が途中までだ。
俺は、最初から読んでみる。
読んだ覚えのある文章だった。
まだ序盤も序盤だからかな、人物と世界観の説明が主だ。変えようがないのかもしれない。
もしかして、あらすじだけ書き間違えたんじゃなかろうか。
秋陽はそそっかしいから、有り得ない話ではないと思う。疲れていたか、幾つもネタを考えてたから、混乱して間違えてしまったのかもしれない。
そんな俺の希望的観測は、読み進めていく程に打ち破られていった。
俺が持っている原稿でも、ネットの小説でも、マーテルがとある儀式を受けるシーンから始まる。
元々マーテルが持って生まれた『災厄』という魔法――どっちかと言うと、自動で発動するスキルみたいイメージなんだけど。
『災厄』は、まさしく『魔法』だ。他のキャラクターが使う、魔術とは少し違う。
魔術が魔力を持った人間が学べば使用出来るのに対して、魔法はその人しか使えない才能、って言えばちょっとは分かりやすいかな……。
文字通り周囲に『災厄』を齎す魔法で、マーテルの精神状態にも寄るけれど、多少の強弱と対象くらいは自分で操れるらしい。
少なくとも、物語開始時点では。
儀式の内容は、マーテルの災厄を強化するというモノだ。
如何やってか、というと……他人に降りかかる不幸をマーテルに移す。
ほら、日本でもあるだろ。神社に置いてある人の形に切った紙とか、人形に厄を肩代わりさせるっていうアレ。あんな感じ。
ではマーテルは誰の不幸を肩代わりしているのか?
それは、妹姫の……フェリシア・マリアリューヌ・フリズレイア。
彼女は、あらゆるモノがマーテルとは正反対だ。
金色の髪と蒼い瞳で、名前通りの幸福な姫君。
父親たる国王から国民の一人一人に至るまで、彼女を愛していない人間はいなかった。
時にはフェリシアを巡って諍いが起きる程、フェリシアの為に全てを捧げる者も後を絶たない、らしい。
まぁ、何か起きてもフェリシアの一言で解決しちゃうんだから凄いよね。
そんなフェリシアは……どんな事をしても良い結果を引き寄せる事、何より一目見ると天にも昇る気持ちになれる程の美しさから『祝福姫』と呼ばれている。
何処までが儀式の影響なのかは、分からないけど。少なくとも父王や魔術師達は信じている、だからそれがあの世界では真実だ。
マーテルはフェリシアの為の道具――それも、生きた呪具だ。
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