偶然、それはきっと俺のチート 1
実を言うと、俺は夕飯までに課題の類を片付けてしまいたい派だ。
言ったろ、俺は真面目なんだよ。
さっさと終わらせて後は悠々自適に過ごす、これ最高。やる事やってれば基本怒られる事もないし。
結局の所これが一番楽をする道だと思ってる。
風呂から上がって身も心も暖まった俺は、何時ものようにネットの海を泳ぐ事にした。話題の動画を見たり、面白そうなニュースを読んだり。
あとはたまに、ネットの小説投稿サイトで面白そうなヤツを探す。秋陽の影響で、気が向けば俺も閲覧するようになっていた。
まずチェックするのは、追い掛けている作品が更新されていないか如何か、だ。
新しい話が追加されていれば、続きを読む。前回気になる終わり方をしたのに続き書いてないとかね、焦らすなよ。
そんな結果だったから、俺は新しい小説を探す事にした。……本当に、気まぐれだった。若しくは無意識で、明日どれかを秋陽に薦めてみるかなと思っていたのかもしれない。
トップページには、運営や利用者のお勧めだったり、所謂ランキング上位の人気な小説が並んでいる。
うーん、この辺は多分皆目を通していると思う。やっぱりさ、誰かに薦めるならあんまり知られてない方が良いよね。
こう、隠れた名作を知ってる俺カッコイイ、みたいな。あるでしょ?
検索のページに移動する。ジャンルも評価も様々な作品が、ランダムに表示された。
タイトルやあらすじを見ながら画面をスクロールさせて、惹かれるものがあれば読んでみる。
しおりを挟んで、また次の作品を探す、それを繰り返した。
何度目かの検索結果ページで、たまたま目に付いたのは……『災厄姫に幸福を』というタイトルだった。
今流行りの、悪役令嬢物だろうか。
こういうの、あんまり読まないんだけど。いやぶっちゃけ全然興味ない。
実際女の子向けのが多い訳で、男の俺が読んでも気持ち良くならない。
それでも俺が引きつけられたのは、災厄姫というワードの所為だろう。
「うわ、不思議な偶然」
マーテル・ダネス……本名、マテリア・シルヴェストリス・フリズレイア。
それは秋陽が書いた小説の主人公にして、災厄姫と呼ばれるフリズレイア王国の第一王女の名前だ。
同時に自分をモデルにして創り出した、秋陽自身でもある。
災厄姫と学園の新生活、災厄姫と反乱の街、災厄姫と屍達の鎮魂歌、災厄姫と嘆きの空、災厄姫と救済の絵本――そんなタイトルを付けて、秋陽も『災厄姫シリーズ』と呼んでいた。
「まさかなぁ」
つい俺は気になって、あらすじに目を遣る。
『憎しみを抱え、怨んだ相手に不幸を齎す事が出来る体質から、その存在を消された王女のマテリア。彼女は証拠を残さない暗殺者のマーテルとして、国や妹の為に使われていた。』
「……嘘だろ」
全く同じだった。彼女の名前、生い立ち、境遇、能力も。
「これ、もしかして秋陽が書いて投稿してるのか?」
だから、俺はこの時点ではそう思った。確かに前に、秋陽はこの投稿サイトにライターとして登録してるみたいな話はしてた気がする。
何だよ投稿するなら俺にも言ってくれよ。っていうか皆にも教えてやれば良いのに。
そしたら皆で応援してやるんだからさ。水臭いよなアイツ。
見つけた事、明日秋陽に言ってやろう。内緒にしてた事が見つかって、きっと驚くだろうなぁ。
そう考えて、思わず頬が緩んだのだが……俺は次に目に入ってきた文章に驚愕した。
『そんな彼女の元に現れた、謎の青年・キルシュ。』
は?
『彼の後ろ盾を得て、マーテルは第一王女として認められる。徐々に二人が惹かれあう中、しかし世界は動乱の中に堕ちていく。隣国からの戦線布告、そして侵攻。』
いやいやいや。
『全てに絶望した王女が再び世界に立ち向かうファンタジー。』
……。
「はぁぁぁぁぁぁっ⁉」
あまりの内容に、俺はつい声を上げてしまった。
惹かれあう? 惹かれあうって何だよ!
俺が知ってるのと違うじゃないか!
「つ、綴? 如何したの、大丈夫?」
俺の叫び声は、余程大きかったらしい。
隣の部屋で寛いでいた、一つ下の従妹が慌てて様子を見に来るくらいには。
「あっ雪奈……何でもないよ。ちょっと驚いちゃって」
ドアを少し開けて中の様子を窺っているのは、
俺と同じ高校に通う為に俺の家に下宿している。
あ、言い忘れてたけど俺は二年生だ。
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