蒼い流れ星


「みきゃぁぁぁぁぁっ!?」


 和んでいた私達の耳に、悲鳴が聞こえた。

 それも、今探している筈のクーニャの声である。


「にゃっ!? にゃっ!?」


 流石にというか、私の腕の中で眠っていたソラも目を覚ましたらしい。

 混乱してきょろきょろと周りを見て、王子達の存在に気付いては更に困惑するといった悪循環が起きているようだけど。


「方向は……中庭にゃね」


 お耳をぴくんと動かしたマティが窓の外を見た。ヤナ達や私も、マティに続き外を見てみた。


 外は夜で、薄い蒼色の月の光がとても美しく神秘的だ。

 でも残念ながら、それに見とれている場合ではなかった。


 広い筈の中庭いっぱいに、何かが蠢いている。

 月明かりに照らされたそれは、人間界でいう所のウツボカズラが巨大化したような植物であり、蠢いているのは無数の蔦のようだった。


 私達がいるのは、恐らく城の四階くらいであり、蔦が届く事はないようだったけど。


 蔦の一つが、何かを捕まえているようだ。

 小さな、金色……それは私達が探していた。


「クーニャ!」


 何て事だろう。人猫族の可愛らしさにかまけてないで、私がちゃんと探してあげていたら。


 私は咄嗟に窓を開けると、身を乗り出した。中庭に飛び降りて、クーニャを助けるつもりで。


 しかし。


「あ、あいにゃん駄目にゃ! マカイカズラは危にゃいから!」


 私の思惑に気付いたのはソラだった。咄嗟にカーテンを掴み、爪を立てる。


「でもクーニャが!」


 マカイカズラは口に蓋をしていた葉を退け、クーニャを中へ放り込もうとした。中にはやはり、消化液が満ちているのだろうか。


「人間にゃんてひとたまりもにゃいよ!」


「そうにゃ、食べられちゃうにゃ!」


 飛び降りようとする私をヤナ達は必死になって止めた。

 魔法を使っているのか、小さな人猫族の力でも私の動きは封じられてしまい、助けに行く事は出来なかった。


「陛下!」


 そんな私よりも先に、マカイカズラに近付く人物がいた。


 蒼銀色の長い髪を後ろで束ねていて、疾駆する姿はまるで流れ星のようだった。


 目にも止まらぬ早さで腰のサーベルを抜き、振るう。

 私から見えたのは、一瞬の白銀の残像だけ。


 しかし、彼の剣はクーニャを捕らえていた蔦を切り落とした。


 真上にいたクーニャは落下し、丁度彼の手に受け止められる。

 しかも両手でだ。何時の間に納刀したんだろう。全然見えなかった。

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