不思議な趣味の長男王子

 あっという間にキャットフードを食べ終えたロシアンブルーちゃんは、満足そうな笑顔を浮かべていた。が、すぐにはっとなる。


「ま、まぁ、なかなかの味だったにゃん」


「お代わりあるよ?」


 私の言葉に、ロシアンブルーちゃんの尻尾がぴーんと立った。


「私、布津木和。ソラに頼まれて、いなくなったクーニャを探してるの」


「ソラにゃ? て事はお前が召喚された人間にゃね」


 ロシアンブルーちゃんは詳細を知っているらしい。ただ、明後日の方向を向いてしまった。


「教育係にゃんて、俺には必要にゃい」


 て事は、この子が王子の一人なのかな? 言われて見れば目の色がクーニャと同じエメラルドグリーンだ。


 まぁ、確かにこの子は賢そうだししっかりしてるみたいだけど。


「じゃぁおやつも必要ないかな?」


「い、いるぅ!」


 やっぱりキャットフードの誘惑には勝てなかったらしい。私はもう一本目を差し出してみた。


「一緒にクーニャを探してくれる? 実は私、道が分かんないんだ」


「分かったにゃ。見付かった暁には更におかわりにゃよ」


 魔界の人猫族をも魅了するのか、このキャットフード。凄いな。


「ところで君のお名前は?」


「キリス、にゃ。第一王子にゃよ」


 ああ、そうなんだ。ロシアンブルーちゃん改めキリスは、確かに他の人猫族よりもプライド高そうな気がする。何か納得した。


「じゃぁ早速行くにゃ」


「でもこのお部屋、お片付けしないと駄目だよ」


 それにしても……電気付いてて蝋燭も点いてるって何かシュールだ。


「にゃ? これはこれでいいんにゃよ。インテリアというヤツにゃ」


 後で知る事だけど、この部屋やさっきの変な儀式は……キリスの趣味なんだそうだ。ちょっとの実益を兼ねてはいるが、好きでやっているらしい。


「いやそうだとしても蝋燭は消さなきゃ」


 この数を一本一本消すのも骨が折れそうだけど、火事にでもなったら大変だ。

 床は石で出来てるし、燃えそうな物はこの部屋にはないし、もしかしたら城の絨毯とかも耐火に優れてるのかもしれないけれど。

 でも危ない事に代わりはない。他の人猫族が火傷したり、毛が焦げたりするかもだし。


 近くの蝋燭を吹き消した私を見上げ、キリスは微妙な顔をした。手間が掛かるのは好きではないらしい。


「にゃ……分かったから任せるにゃよ」


 キリスは両手を上げ、万歳の恰好を取った。


 そして、気合を入れて鳴く。


「にゃっ!」


 すると、一気に蝋燭の火が全て消えた。如何やらキリスの魔法的な不思議な力らしい。

 ちなみに点ける時も気合一声でやってるんだとか。便利だなぁ。でもそれなら早く教えて欲しかったよ。


「これで良いかにゃ?」


「うん」


 キリスは着ていたローブをいそいそと脱ぐ。そして人猫族には丁度良いのであろう小さなハンガーに掛けた。ソラ達もだったけど、ローブは儀式専用らしい。


 いやでもキリス、ローブの下に着てるその恰好って……。


「何で陰陽師なの?」


 映画や漫画の中だったり、神社の神主さんが着てるのくらいしか見た事なかったけど。キリスが着ているのは……日本の、狩衣と呼ばれる装束だ。


 キリスの身長もあって、ぬいぐるみにお雛様の衣装着せたみたいに見える。


「これ? 趣味にゃ。それに、猫は祟る生物にゃし」


 可愛いし似合ってるけど、誰がこの衣装繕ったのかな。ちょっと気になる。


 あと陰陽師は天文学と暦の研究者であって、別に人に呪いを掛ける職業じゃないからね。


「あ、クーニャもだけど、弟達にも会ってくにゃ?」


 しかし新たなる可愛い人猫族ちゃんとの出会いの予感に、私の中からそんな些細な問題は吹き飛んだ訳で。


「うん、会う!」


 どんな子だろうと、きっと可愛いんだろうな。だって猫だもん!


 しかしキリスはその場から動こうとしない。


「如何したのキリス? 行こう?」


 キリスは私に向かって両手を伸ばしてくる。

 あれ、何かちょっと、ほっぺが膨らんでる? 尻尾が床を叩いてるし、不機嫌?


「俺も抱っこにゃ。ソラが抱っこで俺が歩くとか納得いかにゃい」


 キリスは抱っこでないと動くつもりがないらしい。

 私は苦笑しながら、キリスも抱き上げた。

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