まずは魔界に召喚された時の事を思い出す 2
「えっと……まずはついてきてほしいんにゃ」
ソラはてちてちと歩き出した。が、如何せん小さい。故に歩幅も狭い。
つまる所、遅い。
「あのね、抱っこしても良いかな?」
「にゃ?」
私はソラを腕の中に抱えた。今度は事前に申し出た為、そんなに驚かれなかったようだ。
「あっちにゃ」
ソラの指示する方向へと、私は歩き出した。
ちょこちょこと、他の人猫族達も後から付いて来る。そして柱や分かれ道の陰から顔を出し、チラチラと私を見ていた。全然隠れられてないよ。耳や尻尾も見えてる。
試しに私が歩みを止めて、いきなり振り返ってみた。
「にゃっ⁉」
すると、ササッと完全に隠れてしまう。
ああ……分かる、分かるよ。これは『猫のダルマさんが転んだ動画』、撮りたくなるよね。
「あいにゃ、どしたにゃ?」
不思議そうな表情をしたソラが私を見上げながら尋ねてきた。仕方ない、もっとやりたいけど程々にしておこう。
「あ、あれをみてほしいにゃ」
前足……手……いや、おててだな。ソラのおててが指した方向を見てみる。
壁には、立派な肖像画が掛けられていた。薔薇の細工が施された、金色の額縁で飾られている。
しかし、それよりも目を引いたのは……やはり、描かれている人物の容姿だろう。
彼の髪は、白に近い淡い金髪で……まるで月の光の色だった。長い睫毛で縁取られた切れ長の瞳は、煌めくエメラルドグリーン。
細身ながらも、鋭い目付きが放つ威厳が男性的な印象を受ける。更に、端正な顔立ちが何処か冷たい雰囲気を醸し出していた。
その所為か、同じ猫の耳だと言うのに――彼はまるで、豹やチーターなどといったネコ科の肉食獣のようだ。
「うわぁ、イケメン」
「あれ、まえのまおうにゃ」
え、人猫族ってあんなイケメンに育つの?
「ソラも大きくなったああなるの?」
見た感じ1.5頭身くらいだけど。魔王様は八頭身くらいありそうだよ。
どんな成長をするんだろうかと思っていたら、ソラは首を横に振った。
「おれはこれでおとなにゃの」
如何やらソラはこれ以上大きくはならないらしい。魔王様は特別なのか、魔力とかであの姿を保っているのかな。
そんな事もありながらの道中、ソラから沢山教えてもらった。
曰く、此処はまさしく魔界であるとの事。ソラ達みたいな獣人と呼ばれる人種も色んな部族がいれば、背中に蝙蝠の羽が生えたような『THE・悪魔』な人も住んでいるらしい。中には巨大なモンスターやドラゴンなんかだって存在しているそうだ。
私達が今いるのは魔王城で、読んで字の如く――魔界を治める魔王様や側近さん達が暮らしているお城だ。うん、取り敢えず広いのは理解した。一人じゃ絶対迷うと思う。
そして、ここからが肝心な話。
今の魔王様は最近、何者かに強力な呪いを掛けられてしまったのだそうだ。
一番強い人がそうなっちゃった訳だから、他の人では解く事も出来ない。それでも今は皆、一生懸命解呪する方法を探している。
しかし、それとは別に皆を纏める人が必要だ。つまり、代理の魔王を立てる事にした――しかし、だ。
跡継ぎである魔王様の息子達は、まだ幼かった。
ならば我こそが、と名乗りを上げる猛者が沢山出てきた。だから今の所は宰相をしてる人が、そういう野心に溢れる人達を牽制しながら政務を行っている。
只でさえ宰相というのは激務だそうで、王子様達の教育にまでは手が回らないらしい。その上、候補となる王子達は四人いる。それぞれが都合の良い王子を担ぎ上げたり、他の王子を暗殺しようとしたり、このままでは善くない事が起きるだろう。
だから、私を教育係として召喚したのだそうだ。小さな見た目に反して、人猫族は強い魔力を秘めている。だから一族総出で儀式を行った……というのが、事の顛末らしい。
ソラに導かれて辿り着いた部屋には、籠が置いてあった。何だろうと思って覗き込んでみると。
(か、可愛い……!)
中にはクッションが敷かれており、その上では人猫族の少年が眠っていた。身体も、尻尾も丸めるようにして。すぅすぅと規則正しい寝息を立てて、気持ち良さそうだ。
「もしかして、この子が王子様?」
さっき見た肖像画の魔王様と同じく、彼も淡い金髪をしていた。耳も尻尾も同じ色の毛皮で覆われている。
いや、こっちは可愛らしくクリーム色と呼びたいな。あっちが月光なら、こっちはミルクをたっぷり使ったカスタードクリームみたいだ。
眠っているので瞳の色は分からないが、顔も何処となく似ているような気がする。
一番最初に会わせたって事は、この子が長男なのかな。
「ちがにゃ、いまのまおうにゃ」
「え? この子が?」
ああでも、小さいとは言え魔族だし。見た目と年齢は一致しないものだろう、こういうのは。
「さっきのが先代の魔王様で、この子が今の魔王って事か」
ちょっとややこしい。って言うか成猫とは言え、こんな小さい子が既に子持ちなのか。人猫族って凄いなぁ。
なんて私は思っていたのだが。
「にゃ? ちがにゃよ。さっきのも、ここにいるのも」
え?
「どっちも……まおう、クーニャ、にゃ」
肖像画の人物とこの子が、同一人物……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます