第4話 バイト。

しつこくバイト先迄着いてこようする要をやっと振り切って、就業時間10分前になんとかバイト先の喫茶店に到着した。たっく、あいつのせいで遅刻するところだったじゃねーか。


「すみませーん、お疲れ様でーす。」

カランカラン~っと、開くとベルが付いている小気味いい喫茶店らしい、来店合図のついたドアを開くと、そこには、耳のした迄伸びた長髪の、しかしきちんと清潔感がある黒のタートルネックを着た男性が優を迎い入れた。彼はここのマスターで、年は30台半ば位だろうか。


「やぁ、優君。お疲れ様。」

「今日から学校だったのかい?」


優の制服の青い学ラン姿を見てマスターが言った。


「はい、今日始業式だったんです。」


ふふふと、マスターが少し笑みを漏らしながら言った。


「優君て外見、幼いなぁってたから、学ランってイメージ無かったけど、似合ってるよ。あ、気悪くしないでね。誉め言葉だからさ。」


「えー、本当に誉め言葉ですかぁ笑。幼いなんて17にもなってショックだなぁ笑。」


はははと二人で笑いながら、いつものようにマスターは珈琲を入れてくれた。ここに来ると、きまってまず今日の珈琲飲んでから洗い物、掃除、接客が一連の流れになっていた。随分緩い仕事だと思うかもしれないが、まずうちの珈琲の味を知って、お客様にも薦めて欲しい、しいてはそれがお店のいい雰囲気作りになるというマスターの考えから言い渡された決め事みたいな物だった。


「美味しい」優は一口飲んで言った。落ち着く。今日は特に久しぶりに要にあって心の臓がジェットコースターだったから特に。やっぱり、ここに採用してもらってよかったな。


ここの外観は三角の形のしたコンクリートの打ちっぱなしの建物で、下町であるこの辺の周りの住宅地の建物とは雰囲気も一線を画している。そして一旦中に入ると、店内は暖かい木目調のカウンターのみの10席程のこじんまりした店内である。カウンター中央には、マスターがいつも立っていて、20種類ものの珈琲豆から自分の好みで、自身で珈琲ミルでブレンド珈琲を煎って飲める格好となっている。


ここは家からは自転車で20分と少し遠いが、試験前、図書館で勉強した帰りに何度か通りかかってから、優は、お洒落な雰囲気のこの喫茶店が気になっていたのだ。


「優君何か今日はそわそわしてない?学校で何かあった?」


う、マスター鋭すぎる。


「まあ、色々とありまして。年頃なんでね。」


ふふふと、またマスターは笑った。そして心の中で呟く。普通のここは「なんでもないですよー。」がマストだよ。優君。こんな怪しい喫茶店の店主にベラベラ君の思春期の悩みを話しちゃ駄目だよ。ま、そこが優君の素直で可愛い所なんだけど。

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