魔獣騒乱13
事件。
事故。
自然災害。
そういった事が起こるたび、一人の犠牲者も出ないでほしいと思うのが人の心情だろうけれども、現実はそうはいかない。
「ごめ…ごめんなさい…」
オーディエンスとして観ている者でさえ、その現実に打ちのめされるのですから、災害救助に従事する者たちの思いは幾何の物でしょうか?
それは計り知れないものだけれども、一つだけ言える事は
「君の責任ではないよ?」
そんな言葉は、なんの慰めにもならないという事。
どれだけ魔法が優れた物であっても、死んでしまった者を普通に生き返らせる事はできない。
けれど、5分…いや、1分でも早く駆け付ける事ができたなら…もしかしたら、その命を繋ぎ止める事ができたかもしれない…
考えても詮のない事だけれど、エリエル・シバースはそう考えずにはいられなく、それは本音の部分ではスカーレット・イヅチだって同じなのだけれど
「救えなかった命を悔やむ事は後でもできる…今は、救える命を救う事に集中しよう…」
押し殺す。
それはおそらくは正論で、そうであればこそとても冷たい言葉と受け止められかねないものだけれど、そうは感じさせないのはスカーレットの人柄の成せる業。
そしてそれこそが、クルーア・ジョイスが彼女が苦手で、エリエル=ソフィア・パナスが彼女が大好きな理由でもあるんだ。
大好きなスカーレットの言葉を受けて、エリエル・シバースは涙を拭いながら、ゆっくりと立ち上がると
「はい…」
力なく返事をする。
それを受けたスカーレット・イヅチは、エリエルの傍に寄って、その手を優しく肩に置く。
エリエルはゆっくりと顔を上げ、スカーレットを見つめるとそこには優しく微笑む彼女がいて、また涙が溢れ出しそうになってしまう。
必死に涙を堪えるエリエルの肩からスカーレットはその手を外すと、優しい表情は変わらないまま
「次が最後の要救助者だ…行こう!」
言って、振り返って歩き出す。
「はい!」
その背中に向かってエリエルは、今度は力強く返事を返すのです。
救えなかった命に対して、もう一度だけ
「ごめんなさい…」
を言い残して、エリエル・シバースは今も助けが来るのを待っているだろう、最後の要救助者の元へと飛び立つのでした。
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