第4話:Selling not cigarettes
「うわぁ……まず」
日々の労働で
今、男によって捨てられたタバコの銘柄は「
抹茶色の背景の中で紫の蛇が文字に巻きついている。何とも手にとりづらいパッケージの煙草である。ちなみにJealousyという言葉を日本語に訳すと「
彼は発売当初から全く人気がなく、吸われることもほとんどなかった。日に日に人気を落としていった彼はいつしか「世界一不味い煙草」として望んでもいない称号を世間から押し付けられてしまったのだ。
そのおかげで悪目立ちし、彼を手に取る消費者は多くなったが、消費者の全てが1箱吸いきることなく彼を捨てた。
『俺なんてどうせ雨に打たれて湿気ていくのがオチだ』
心の中でそう思いながら彼は早く雨が来ないものかと待ち続けた。
ある日、一人のホームレスが彼を拾ってタバコを一本取りだす。そして咥えた先にオイルライターを近づけ火をつけた。
「うわぁーやっぱまじぃな。なんでラズベリーなんて変なもの混ぜたかねぇ。無難にメンソールとかでよかったろうに」
『はいはい、すみませんでしたね』
心の中で彼は口をとがらせる。
「でも、なんか癖になるんだよなぁ……」
そう言ってホームレスはもう1本、もう1本とタバコを吸い始めた。3本目、さらに4本目と吸ってもらうことなんて初めてだった彼は少し嬉しくなった。
ところが6本目に手を付けるところでホームレスの動きが止まり、タバコは箱に戻されていった。
「あぁーやっぱだめだ。口の中が甘くなってきやがった」
そう言ってホームレスはしきりに
翌日から彼は定位置のようにベンチの端に鎮座し続けた。待ち望んだ雨も来ることはないし、かといってタバコを口にする人もいないし、毎日自己を主張し続ける太陽のせいでうだるように熱い日々が続いた。
『いっそのこと横のごみ箱に捨ててくれよ』
自暴自棄になりながら彼はただ風化していく日を夢見てその場に居続けた。
ある日の昼下がりの公園のベンチにひとりの少年が座った。
歳は14を過ぎたあたりだろうか顔にはまだあどけなさが残る。そんな少年の視線は彼に注がれている。
隣には昨日ホームレスが置き忘れていったライターがある。
『こっちを見るんじゃない。まだお前には早い』
声を出せるはずもなく、彼は無駄に注意を惹く派手なパッケージがたまらなく
抗うこともできず彼は口を開かれ、そこから煙草を抜き取られた。少年はおぼつかない手つきで加えたタバコに火をつける。
一息吸った瞬間、突然少年の顔は曇り、勢いよくタバコは吹きだされた。
「……なんだこれ。タバコってこんな不味い物だったのか」
驚いた様子の少年はすぐさま公園の水道で口を開けて彼の
「もう絶対吸わない…ぜったい吸わない……」
小声で何度も
その時、彼は思った。
『嫌われ続けていた俺にもできることはあるのか』と。
そう思えたとき、彼は「自分の嫌いな部分」を「一つの個性」として受け入れることができた。
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