第2話 セクハラ交渉術
アヘ顔って知ってるかい。
知らない人はそのまま純粋でいてね。絶対にググっちゃダメだよ。
実は俺、あんまりアヘ顔に興奮しないんだ。
・・・ごめん。決してあなたの性癖を貶して言っている訳じゃないんだ。
だけど、だけど。
実際に見るとドン引きですよ、ホント。
しかも、1ダース。白目顔で気絶した女性のバーゲンセールですよ。
もちろん、どこぞのゲームのエンディング全部回収して、『はじめから』をプレイした訳じゃないんだ。
そんな、嬉し恥かし1対12プレイだったら良かったのに、現実は厳しい。
そうだ、白目だけじゃアヘ顔って言わないのかも。
試しに手近な子の口を抉じ開けて舌を引きずり出し、指をピースの形にしてみた。
・・・やっぱり萌えないよ。
「しっかし、こんなに堂々と工作員が潜り込んでたって、絶壁姫スキあり過ぎだろ」
腹パンで沈めた怪しい集団を色々剥いて見たら、あらビックリ。
炊き出しの女の子たちじゃないですか、あらこんな所にオッパイが。
「そんで、何でこんな森の中でお友達に追われてんだい。小動物ちゃん」
「ち、ちち、近寄らないでください。この変態!!」
失礼な小動物ですね。危険がないように、念入りに元お友達の身体検査してただけじゃないですか。
(視点変更)
「よい音がしましたね」
リィリィは自室の扉を蹴り入ってきた姉に対し、涼やかに皮肉を言う。
対してアスセーナは、肩をいからせて妹に詰め寄る。
姉の背後では、彼女の側近が頭痛をこらえるようにしていた。
「何か言うことがあるだろう?」
「何もありませんわ。少し顔見知りとお喋りしただけです」
「手引きしたんじゃないだろうな」
リィリィは途中だった本に栞を挟み、溜息を一つ吐いて姉に椅子を勧める。
「わたしが手引きした程度で逃げられる警備体制ではなかったかと。
それに、既に関係者の聴取は終わっているのでしょう」
妹の指摘に口を噤むアスセーナ。
「お姉様、冷静になって下さい。
わたしの方も、彼が消えてくれた方が隠滅で、いえ都合が良いのですよ」
「うん? 助けられたのではないのか? お前の侍従からはそう聞いているが」
「何のことでしょうか。彼はただの野盗です。
お姉様こそ、何故にさっさと首を落とさなかったのですか?」
「迂闊にグリフォンの背に乗るようなことはせん。エサをやらず、弱らせてから叩き斬るつもりだった」
剣呑なことを話し合う姉妹に、控えていたセコイアは若干引いていた。
「それで、どうやって彼は脱走したんです」
「夜明け頃、夜通し煩かった声が聞こえなくなり、不審を感じた兵が命令に反して様子を見に言った所、牢に誰もいないように見えたんだと」
「布団にでも包まっていたのでは?」
「牢の中を見たんじゃないのか? だが、そんな隅々まで覚えていないか。
弱らせるために、余計なものは全部出したのだ、隠れる場所などない。
しかし、いやなおさらか、牢の中に誰もいないように見えて兵たちが焦ってな。
愚かにも魔術師に結界を解かせ、中の確認を行ったんだ」
「それで、どこにいましたの?」
「目の前だとさ、そして全員が返り討ちにあった」
一体どう言う手品を使ったんだか、とアスセーナは天井を仰ぎ見る。
捕縛後すぐに、魔術を使えるかどうか確認はした。そして、部下の魔術師は、クロウの魔力が一般人よりも遥かに低値であることを報告している。
「失礼、某が推測するに、狩人、の技能でしょうな。
熟練の狩人は、獣にも察知できぬ位に気配を消すことができる、と聞いたことがあります」
「それに加えて、心理的駆け引きですわ。
交代前の一番疲労している時、思考能力が低下している時に監視対象を見失う。
そして、夜明け前、お姉様やセコイア殿が目覚める直前、人が一番起こされて不機嫌になる時間だったので上申を躊躇した」
疲れと焦りでパニックを起こしたのでしょう、とリィリィは付け加える。
「しかも、やっと朝が来たと窓から日を昇るのを見ていたら、なおさら相手の術中にはまりますわ。
地下室は暗いですもの、目が慣れる前に牢内を確認してしまい、いないと思い込んでしまったのかと」
思わぬ所からの解説に、アスセーナは目を丸くする。
妹に何でそんな知識があるのだろうと顔に書いてある姉に対して、妹は奇襲の応用かと、と今まで読んでいた兵法書を手渡した。
アスセーナは、なんとなく妹に違和感を感じるような気がして、首を傾げながら書を受け取る。
著者を見ると、興国時に国王となった人物を支えてこの地を拝領したご先祖様の著であり、内容は当時の戦のご先祖様が執った指揮についての回想と解説だった。
「それで、お前は何故言いつけを破り、あの不埒者と面会した」
パラパラとめくっていく書に目を落としながら再度同じ疑問を口にし、書をとじて妹に本を差し出す。
「さきほども申した通り、知り合いなので少し話をしただけですが」
「内容は・・・・・・、教えてくれんのだろうな」
姉の言葉を聞いていないように、リィリィは姉に手渡した書を手元に戻し、昨晩のことを思い出した。
(視点変更)
「プ、ププ、プププププププププププププップ!
チャチャチャンチャララン、チャチャチャンチャララン、チャチャ!!
おめでとうございます!!」
「伺いたいのですが、何をなさっておいでなのでしょうか?」
「おう、お漏らし姫じゃん」
全く、この不埒者は。デリカシーのかけらもないようで。
ですが、この程度の戯言で憤っていては、不埒者の思うツボ。
ここは、冷静に。余裕を見せて対応しなくては。
「取引です。わたしのものになりなさい。「おーい、顔引きつってるぞ」
そうすれば、ここから出して差し上げます」
お姉様にはセコイア殿という腹心がいます。わたしも腹心が必要なのです。
それも、セコイア殿のような武威を示す者ではなく、影戦で本領を見せるような者が。
このごに至ってワガママは無しで、多少、いいえ、かなり性格に難があるような不埒者でも、能力があれば目の前のコレで我慢します。
「え〜↓、俺がお漏らし姫の下につくの? 便器にでもするの?」
「どこからそんな下品な想像が湧いてくるのですか!!
頭がおかしいどころじゃありません。どれだけ昔に人間を辞めたのですか!?」
思わず大声を出してしまいました。我慢できるのでしょうか、自信がなくなって来ましたわ。
「ご自身の立場を理解できていて?
お姉様は食料を断つことで貴方を弱らせ、そこで服従か死かを問うおつもりですわよ」
だろうね〜って、なんでそんなに楽観的なのでしょうか。
「ずいぶんと気楽なようですが、逃げ出せるとお思いですか?」
「いやあ、結構一杯一杯だよ。喉が乾いているのに、もう160番に届きそうなの」
また訳のわからないことを、撹乱でもしてるのでしょうか。
「賭けをしませんか。
ここから逃げ出せなかったら私の勝ち、沙汰を下しにきたお姉様の前でわたしに忠誠を誓って貰います。
あなたが勝ったら、わたしのできることか持っているもの何か一つ望みを言いなさい」
我ながら不公平な勝利条件と報酬、この不埒者はわたしとの差を実感できていて?
「じゃあ、俺が勝ったら吸わせて」
「何を吸いたいのでしょうか。煙草、それともハシシの類かしら?」
「そのでっかいオッパイ、もちろん生で」
オッパイ? わたしが自分の胸を指差すと目の前の男が頷く。
わたしの? わたしが自分の顔を指差すと目の前の男が頷く。
「ば、ばばばばばばばばば馬鹿じゃないの、できる訳ないじゃない!!
信じられない!! やっぱりデリカシーが無い!! もうヤダァ」
本当に不覚、わたしは無様にもまた泣かされてしまった。
泣き止んだ後、彼と少し問答をしていたのを覚えている。
-ムリ? ウン どうしても? ウン うーん困ったな 他のにしてお願い-
この時点で交渉の主導権を奪われていたことは、後で冷静になってから気付いた。
「じゃあ、さ。明日の日が昇った時に俺の刀、いや剣を返してよ」
無理なお願いをしてから、本命のお願いをする。
動揺させられて、わたしは交渉の基本に引っかかってしまいました。
脱走者に武器まで渡すとなると、バレればわたしでもただではすみません。
「ふん、でも明日の朝日が昇る時って、確かに聞いたわよ。失言ね」
あちゃー、しまったと彼が呟くの聞いて、わたしは愚かにも気を良くしてしまった。
「監視の兵達には伝えておくわね。それでは、朝までごゆっくり」
恥ずかしい話だが、鼻歌を口ずさみながら階段に向かい、背後で彼が、明日城門でね、という言葉に手を振って応えた。
「・・・信じられないわね、本当に脱獄できるなんて」
城門前に彼がひょっこり出てきた時、わたしの第一声がそれだった。
「ほい、ありがとう。
しっかし、城門開けっ放しかよ。大丈夫なのか?」
「お姉様の方針よ。城壁内の街の治安維持に力を入れて、城門を開放することで商人がより多く立ち寄るようになるの」
へー、と彼は大きな笑みを浮かべる。すごい、この人、文官もわからなかったこの政策の言外の意味を理解している。
「聞いても良いかしら。どうやって逃げることができたの?」
彼は少しかんがえてから、曖昧な笑みを浮かべた。
「戦術の応用。
現在のこの国では、あまり複雑な戦がしばらく行われていないみたいだけど。
この国の黎明期や遠くの国では、軍師みたいなのがいたようだから、探せば彼らが遺した兵法書が見つかるかもね」
意外に知的なのですね。
彼はもうこちらを見もせず、城門を抜けて歩いているため、わたしはもう彼が今どんな表情をしているかがわからないのが、何か悔しい。
「じゃあな、お漏らし姫」
「!!」
彼を心から屈服させることができなかったのが、本っ当に悔しいですわ!!
(視点変更)
この地に派遣された理由は、ユーリリオンのお姫様の本音を探るため。
この街に一緒に来た偉い人の付き添いで、質問の答えを私が確認する。
偉い人と一緒に来たと言っても、移動中偉い人は私に近付こうとはしなかった。
現地に着いて、私と同じように情報戦に携わる人達に紹介された後、私は隔離された。
当然だと思う。ここで取り扱っているものの内容は、迂闊に外に出せない。
私は訓練は受けてないので、知ることができても、いざという時に黙ることはできないのだから。
それでも、時間を持て余していた私は仕事をお願いし、諜報員が現地の人に溶け込むために行なっている炊き出しの仕事の補助を言い渡された。
男性、特に発散できていない男性はとても苦手だ。
私や他の諜報員の子達に、卑猥な感情を向けてくるからである。
他の子達も、私ほど明確に感じ取れていないのに、いつもの鉄壁の仮面にヒビが入っている位に引いていた。
そして、目の前に来た黒い目をした物乞いさんは常軌を逸しており、私は堪らず気絶してしまった。
目が覚めても気分が悪かったので、そのまま目を閉じていた。
様子を見に来た人は、私が眠っていたと思っていたみたい。
その人は、油断していた。私は、私の今後の処分について知ってしまった。
私は怖くなって、夜明け前にユーリリオンの街を抜け出した
けど、街から出て、お昼頃に見つかって、殺されちゃいそうになっていた時。
黒い目をした変態が、道も無い山の中なのに通りすがった。
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